グラフペーパーの2021年春夏コレクションの販売がスタート。テーマに掲げた「QUIET LIGHT」は、日系アメリカ人の彫刻家であるイサム・ノグチに紐づいている。春夏立ち上がりのタイミングに和風テイストの内装に一新したグラフペーパー青山店で、クリエイティブディレクターの南貴之に今春夏への想いを聞いた。
2021年春夏シーズンの立ち上がりに合わせ、“都内で最も辿り着きにくいショップ”の異名を持つ人気ブランド「Graphpaper(グラフペーパー)」の青山店は、2階の内装を和風テイストに模様替え。
入口と店内奥には、20世紀を代表する彫刻家・画家・インテリアデザイナーとして著名なアーティストであるイサム・ノグチ(1904~1988年)が手掛けた“光の彫刻”、「AKARI(あかり)」が置かれている。
南貴之:そのテーマもイサム・ノグチに紐づいたものです。僕が10代の頃にNYで展覧会があって、その図録のタイトルが「QUIET LIGHT」でした。とあるルートで入手して、今もたまにページをめくっています。
朝霧に潜む穏やかな生き物のごとき光の彫刻を“静”とするならば、内から湧き出る“動”のインスピレーションに絶えず突き動かされる男が、「グラフペーパー」を手掛けるクリエイティブディレクターの南貴之だ。
クリエイションの着想源に「イサム・ノグチ」を据えた南に、今春夏への想いを聞いた。
南:コロナ禍ということもあり、ここ1年は海外出張もできず、日本人であることを今まで以上に強く意識しました。僕の洋服作りは興味がある対象を掘り下げていくスタイルですが、今の気持ちにフィットした人物が、日系アメリカ人のイサム・ノグチだったということです。
―――イサム・ノグチが追求していた日本的な和の空気は「グラフペーパー 青山店」にも表れていますね。
南:前回は工業デザイナーがテーマだったので無機質な内装でしたが、今回はイサム・ノグチの照明を置くに相応しい和な空間づくりを心掛けました。商品ラックには和紙を貼り、関節照明の光がうまく漏れるように配置しています。訪れるお客様にも新鮮な気持ちで洋服に向き合って欲しいという、僕なりのおもてなしです。
南:喧騒から離れてリラックスできますよね。香りも空間づくりの1つと考え、今春夏は初めて「グラフペーパー」でフレグランスを商品化しました。ネーミングタイトルの「QUIET LIGHT」は今春夏のテーマと同じ。天然のヒノキやヒバから抽出したナチュラルなアロマです。
―――今後は毎シーズン、テーマと同じネーミングのフレグランスを調合する計画ですか?
南:そのつもりです。記憶を想起する芳香を手掛かりに、シーズンを思い出して欲しい。調合にも立ち会っています。凝縮したエッセンスをスポイトで1滴1滴垂らしていく作業は化学の実験のようで、個人的にも新鮮でした。
―――香りにまつわる思い出はありますか?
南:買い付けで海外を巡ると、電車とかホテルとか人とか、日本にない香りに溢れていますよね。アメリカで深夜にヘトヘトでエアビーの宿泊地に辿り着き、「どこか懐かしい草木や牧草のような匂いだな・・・」とリラックスしながら床に就いたんです。朝起きたら牧場の真ん中にあるモーテルで、そりゃそうだよなと。
―――モノづくり、空間づくり、舞台芸術まで幅広く活躍したイサム・ノグチの作品で最も好きなモノは?
1951年から晩年近くまで制作した「AKARI(あかり)」。NYを拠点に来日を重ね、岐阜の職人と共同制作したというエピソードなど、日本様式への強い興味が顕現したフォルムは世界で絶賛された。青山店のほかヒビヤセントラルマーケット、仙台店、京都店にも別作品が置かれている。一部販売も。
―――アート畑から、まったく「グラフペーパー」を知らないお客様が来店することも?
南:前回も噂を聞きつけて、ディーター・ラムスがデザインしたブラウン社のオーディオ製品のみを見に来てくれた大人のお客様がいましたね。いろんなキッカケで「グラフペーパー」を知ってもらえたら嬉しいですね。
―――その逆のパターンもありそうです。
南:若い子は「グラフペーパー」の洋服からイサム・ノグチを体験するかもしれません。このジャケットはシワ加工が施され、「AKARI(あかり)」が照らす陰影が美しく浮かび上がります。スタッフもそう接客するはず。
―――では、今春夏のアイテムを例に、具体的なクリエイションについて教えてください。
南:イサム・ノグチのモチーフでは石が象徴的で、このジャケットのグレーは石の色を表現しました。チタンを配合したポリエステルフィラメントのツイル地で、UVカットの機能もあります。羽織るだけで雰囲気があり、フレンチワークジャケットがベースで着やすいですよ。
続いて南がピックアップしたアイテムは白シャツ。肩周りはコンパクトながらも、大きく身幅を設けたビッグシルエットは、まさに「グラフペーパー」の専売特許だ。
南:胸ポケットは雨水が入らないアンブレラヨークのデザインです。デザインのベースは90年代の「GUESS(ゲス)」から。2枚の表生地を重ねて縫製し、パッカリング加工で縫製部分に独特の凹凸を出しました。
―――肌に触れる生地も、表側の生地ということ?
南:裏表ともにポプリン生地の表地を使ったダブルフェイスです。着心地も快適で透けることもありません。ぜひ、ヘビロテしてもらいたい白シャツですね。
南:これも、今春夏の和のテイストから、陶磁器の染付(そめつけ)の色を起こしてみました。
―――染付とは、青が模様で載せられた食器ですね?
南:はい。2021年春夏ならではのブルーです。僕はコレクションの全体像を1年前くらいから考え始め、確実なところで“色”から作り始めます。洋服のデザインはベーシックなものが多いので、染色屋さんや機屋(はたや)さんと打ち合わせしながら、自分が出したい色や染めたい色を突き詰める工程に重きを置いています。
―――大人男子にオススメのアイテムを1点、ピックアップしてください。早期完売が予想されるものは?
南:染付のブルーもいいけれど、やっぱり「グラフペーパー」らしいグレーを着てもらいたい。これはオランダ軍のアーミーシャツがデザインベースになっています。
コットン100%でありながら、どこかウールのような重厚な質感が特徴的。これは余分な毛羽を削ぎ落し、独特のヌメリと柔らかさを表現する特殊加工によるものだ。
南:スタッフからの色欠けの連絡があると、ほとんどがグレーです。実は黒が残りがちで、最後まで売り切るフックになったり。この店頭状況も他店と違うウチらしさなのかな。
南:こだわりは根気よく伝え、お互いの時短のために即ボツにする決断力を持つことが大切です。たとえば僕はコンクリートのような冷たいグレーが好きで、赤味がかったグレーはボツになる。染色屋さんのほうも、色出しに命を賭ける僕を理解しつつ1回で終わらせたいので、毎度真剣勝負で決めていく。仕事の醍醐味ですね。
―――その綿密なコミュニケーションをとる工程が、コロナ禍では難しいと思います。苦労はありますか?
南:今春夏は香水への挑戦もありましたし、生産過程で勉強になることが多かった。リモートももちろん多用しますが、やはり最後の最後はプロ同士で面と向かってぶつかり合わないと洋服は完成までこぎつけない。様々な隙間を縫って会いましたよ。「では、ここでのことは、お互い何もなかったということで。密なのでこれにて失礼!」みたいな。まるで越後屋と忍者のようでした。
イサム・ノグチの「AKARI」に照らされて、ウッディーな香りの中で穏やかなラストショット。
南:もちろん、半年後の秋冬に掲げるテーマも決めています。でも今は、苦労を重ねてようやく2021年春夏の立ち上がりまで辿り着いたショップのことで頭がいっぱいです。どんなに離れようとも、「QUIET LIGHT」の香りに誘われて、ここに戻って来てしまうんです。
この人のインタビューも読みたい!
テーマ:“イサム・ノグチ” / 発売日:2020年2月13日(土)
問い合わせ先:グラフペーパー TEL:03-6418-9402
www.graphpaper-tokyo.com
※価格は全て税込です。
Interview & Text:Takafumi Hojoh