
「大人のこち亀」とは?
こちら葛飾区の亀有駅。集英社が発行する『週刊少年ジャンプ』にて、1976年42号の連載開始から2016年42号の連載最終回まで“一度も原稿を落とすことなく週刊連載を続けた”国民的マンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(著:秋本治)の世界観を堪能できる常設観光施設として、「こち亀記念館」が2025年3月22日(土)にオープン。
満面の笑みで迎えてくれる両さんに惑わされてはいけない。北口から出ても周囲はせんべろ飲み屋だらけである。「こち亀記念館」の所在地は、2006年2月11日(土)に設置された「両津勘吉像」があるJR亀有駅前の北口“じゃないほう”なのだ!
【大人のこち亀①】亀有駅の両さんに騙されるな!




「こち亀記念館」は亀有駅の北口ではなく、「南口」のほう。2016年8月7日(日)に設置された「ようこそ こち亀の街へ!両津・中川・麗子がお出迎え!像」を目当てに、フルカラーの秋本・カトリーヌ・麗子に挨拶して左折、リリオ商店会の方面に2分ほど歩くと、マンガのコマ割りのごとき見た目の奇天烈な建造物が目に飛び込んでくる。
【大人のこち亀②】トンデモ建築の裏側を知れ!

マンガの世界、そのまんま。一見、亀有の下町にそびえたつトンデモ建築に思える「こち亀記念館」だが、実はれっきとした「葛飾区」の亀有地域観光拠点施設である。葛飾区の依頼で、施設(建築)は(株)久米設計が、コンテンツの展示は(株)乃村工藝社が手掛けているのだ。大人男子は予備知識として憶えておこう。これぞ、「大人のこち亀」!




3月22日(土)のオープン以来、連日大盛況の「こち亀記念館」。「2.5次元のエンタメ体験を通じて、現実世界の亀有周辺スポットを回遊する動機付けとして機能し、誘客を促す、地域に開かれた観光施設」としてロケットスタートを切った亀有の新名所を、“大人男子向け”に紹介しよう。
オープンに先んじてメディア関係者を集めた取材デーの集合場所は、1階のエントランス前だった。そこはマンガやアニメで慣れ親しんだカラーリングで再現された派出所(もちろん架空)が門番のごとく構えており、早くも人気のフォトスポットとして認知されていた。また、「こち亀」ファンならば必ず引っ掛かるネタが至る所に散見。入館前から写真撮影ばかりで身動きが取れないのだ…。
【大人のこち亀③】違和感に気付け!

意を決して入館。ベタに派出所のみなさんが出迎えてくれると思いきや、なにやら様子がおかしい。実は、“没入型”記念館である「こち亀記念館」のコンセプトは「両さんが自分の勤務する派出所の上に自分の記念館を建てちゃった!」であり、来場客もドタバタストーリーのモブとして組み込まれているのだ。両津巡査長のデスクには、出前のかつ丼が置かれたままになっていた。これは事件か!?
【大人のこち亀④】アイデア賞の混雑緩和策!




エントランス付近には痕跡を残すのみ。両さん会いたいがために、来場者は指名手配ポスターが貼られまくりのエレベーターに搭乗し、最上階である5階の「両津大明神」まで一直線。100円の「両津大明神おみくじ」で、その日の運勢を登場キャラになぞらえて見極めよう。毎日入館料の700円(大人)を支払ってコンプリートを目指す猛者もいる。
メディア取材デーで引き当てたキャラは「本田速人・巡査」。気分のアップダウンが激しそう…。


連日大賑わいの「こち亀記念館」は回遊の「導線」もユニークであり、エントランスの先が1階であることは間違いないが、階段は使用せずに最上階の5階から順に下って最終地点の1階へと向かうルートが公式のお勧めである。しかも、大原部長、中川巡査、麗子巡査らのキャラクターボイスによるエレベーターガイダンスで半ば強制されるのだ。
結果として、大渋滞の原因となる1階での滞留をストレスフリーに防ぐナイスアイデアであることがわかる。これも、「大人のこち亀」!





5階から1階まで5層で展開する「こち亀記念館」のフロアマップがこちら。取材中の他媒体の編集者らから、「これって記事5本が必要なのでは…」「さすがコミック200巻超えの金字塔マンガ…」「こち亀もヤバいけど、それを受け入れる葛飾区もヤバい!」などのボヤキが多数挙がっていた。
大人男子は時間がない。圧倒的コンテンツ量にひるむことなく、見るべきスポットを「大人のこち亀」に絞り、要所をかいつまんで紹介していこう。
【大人のこち亀⑤】コンプラギリギリ刑事を見習え!

マンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の面白味は、江戸っ子・両津勘吉の警官らしからぬ言動と、それに巻き込まれる善意の第三者らとの掛け合い。そんな両さんがツッコミキャラの控えに甘んじ、それどころか両さんが真人間に思えてしまうほどのインパクトを放つ特殊刑事たちを紹介しよう。チビッ子はもちろん、「こんなふうに生きたい…」と願う社会人にも大人気な公務員たちだ。
彼らは忖度やコンプライアンスの遵守が第一義である今の時代において、その縛りをブブカ並みに余裕で飛び越える警視庁特殊刑事課に所属する。大人男子の誰もが勇気を貰えるはずだ。




彼らの待機場所は3階の「こち亀のあそび場」。
集英社の少女マンガ誌『りぼん』にも特別編として登場した過去のある「美少女刑事」、某・若手経済学者がテレビに露出し始める遥か前から□〇眼鏡を着用している「麻雀刑事」(初登場:コミック179巻 / 2012年4月発売)、なんと階級は「警視」でありマンガに登場した特殊刑事の中では一番階級が高い「ドルフィン刑事」、そして特殊刑事課会員番号1番の警部補であり特殊刑事課のリーダーを務める「海パン刑事」など、極め付きが勢揃いだ。実力さえズバ抜けていれば、見た目や性癖は一切問われないという優しい世界が3階に広がっている。
また、海パン刑事の股下にある機器に注目。


体験型アトラクションもクセ強すぎの「こち亀記念館」。マンガに登場(コミック170巻収録 / 2010年6月発売)した「開運!?改名くん2号」に指を突っ込むと、開運する名前を診断してくれる。
ちなみに原作マンガでは、連載第1話である「下町の青年警察官の巻」から登場している愛すべきモブキャラである寺井洋一が「丸井 ヤング館」に、東大卒エリート巡査である法条正義が「凄苦 残念(すごく ざんねん)」にそれぞれ改名された。
【大人のこち亀⑥】原寸大の麗子巡査にタッチ!?


同じく3階には「麗子と相性診断」コーナーがあり、メカニズムは不明だが、タッチすると麗子との相性がパーセンテージで測定される。
この等身大麗子ドールにちなんだ回はコミック105巻(1997年12月発売)に収録されている。ドキドキの展開は、ぜひ単行本を購入して確かめて欲しい。ちなみに描かれたコンピュータ制御での成形シーンだが、1997年当時は3Dプリンタではなく、3Dスライス盤で削って成形する方式が採用されている。リアルとマンガの境界線ギリギリで遊ぶ、これも「大人のこち亀」に違いない!
【大人のこち亀⑦】擬宝珠 纏を追え!

職務質問されたい等身大・麗子ドールの隣には、作中においてもリアル読者においても男女ともに支持されている「こち亀」屈指のツンデレ人気キャラ、擬宝珠 纏(ぎぼし まとい)がの姿があった。
纏はいわゆる“追加ヒロイン”の代表格。体力と遊びのスペックのいくつかで両津勘吉を凌駕する纏は、かつて両さんとの結婚話が持ち上がったことがある。が、まさかのハトコ(いとこ同士の子供同士)であることが判明し、さらに両津の守銭奴ぶりが擬宝珠家の怒りを買って破談したのだった。

リビングレジェンドのマンガ家・秋本治が述懐しているように、両津家と擬宝珠家、そしてメタ的観点から読者まですべからく認めているにも関わらず、勘吉と纏の気持ちは作中でハッキリと明示されてはいない。一向に進展しない2人の関係性を、纏の妹の檸檬(れもん)を含めて“疑似家族”と呼ぶファンもいるくらいだ。新しい家族のかたちは、やはり「大人のこち亀」で考察すべきであろう。
蛇足だが、「こち亀記念館」のどこかに、足先のスニーカーまでしっかり描かれた擬宝珠 纏がいる。パートナーと一緒に探すと発見できるかも!?
【大人のこち亀⑧】日暮巡査に「働き方改革」を学べ!


そしてもう1人、四年に一度の登場であるが、しっかりと読者のハートに傷あとを残すサブキャラ、日暮熟睡男(ひぐらしねるお)の存在も忘れてはならない。日暮巡査のマンガ連載初登場は、1980年(モスクワ五輪開催年)の「うらしまポリス!?の巻」にて。意外にも登場が早かった彼は、今思えば「働き方改革」の旗手であり、ようやく時代が追いついたかたちだ。寝姿は記事下の「GALLERY」に隠しておいたので暇があれば見て欲しい。
日暮巡査を追い求め、2階の「わしのためのフロア」へと到着。ここでは「永久名誉館長」である両津勘吉の自室が再現されていたぞ!




昭和生まれは感涙必至。万年床を取り囲むように置かれた日立のアンテナ付きテレビジョンや東芝の旧式冷蔵庫、ファミコンやVHSと思われるビデオデッキ、1972年札幌オリンピックのペナントなど、両さんの部屋は足の踏み場もない。そして、四年に一度の夏季五輪の年にしか出勤しないエスパー巡査、 日暮熟睡男は隣のドアの奥にいる…。
その存在を「100まんえん」の閲覧料を払って確かめるのだ。どう見ても両さんの字であるが、そこは「大人のこち亀」、見逃してあげよう。
【大人のこち亀⑨】「こち亀記念館」を巡り、町へ出よう!

オーラスは2階から1階へ至る階段付近。
壁一面に広がった作品群は、実際にマンガのエピソードで亀有地区が登場した場面をピックアップしたもの。敷き詰められた2階から階段を下って、最終地点である1階の「両さんの亀有ベース」へ。ここは、「2.5次元のエンタメ体験を通じて、現実世界の亀有周辺スポットを回遊する動機付けとして機能し、誘客を促す、地域に開かれた観光施設」を掲げる「こち亀記念館」の象徴的スペースである。




パッと目に入るものだけでも亀有地区の名所・名店だらけ。「亀有香取神社」の例大祭で使用される提灯や法被などを見ると、いっそ引越ししたくなる。両さんが担ぐ幼子は纏の妹の檸檬、纏が抱く幼子は、もう1人の妹の蜜柑(みかん)だ。
マンガを追いかけていくと、「葛飾 伊勢屋 亀有本店」の名物「両さんどら焼き」をお土産に、駅へと向かう勘吉・纏・檸檬の疑似家族があった。
見覚えがあるこの場所は…?

ふりだしに戻る。ここは記念館の反対側、「両津勘吉像」があるJR亀有駅前の北口。
3月22日(土)にオープンした「こち亀記念館」の“大人男子向け”回遊ルートの紹介は以上となる。立体的にエンジョイすべく、本稿を参考に5フロアを巡り、夜は下町情緒あふれる亀有の町へと繰り出そう。居酒屋の片隅に両さんの面影を見つけるかもしれない…。これが究極の「大人のこち亀」だ!
《オマケの3枚》



「大人のこち亀」を満喫するオマケの3枚。
それは、マンガにも登場し館内でも紹介されている「ゆートピア21」。カッパのモザイク画が壁面に描かれた大浴場とサウナには懐メロが流れ、気分は昭和にタイムスリップ。場所は「こち亀記念館」の目と鼻の先。ひとっ風呂浴びて帰るのも粋だ。
こち亀記念館
住所:葛飾区亀有3丁目32番地17号
開館時間:10時~18時(※最終入館17時20分)
休館日:第3火曜日(祝日の場合は直後の平日)
入館料(※事前予約制/※日時指定):
[大人(高校生以上)]700円(※葛飾区民は500円)
[子供(小・中学生)]300円(※葛飾区民は100円)
[未就学児]無料
※区民は在学・在勤を含む
Ⓒ秋本治・アトリエびーだま/集英社