多様性を受け入れる社会の実現を目的とした渋谷区と日本財団の虎の子事業、「THE TOKYO TOILET」を総まとめ。建築家やクリエイターら16人がデザインの力で整備した公共トイレのうち、後編では8人の「クリエイター」に絞って紹介。
8人の「建築家」で編成した前編に続く後編として、8人の「クリエイター」が制作した渋谷8箇所の「THE TOKYO TOILET」を総まとめ。先に、本プロジェクトの経緯を説明しておこう。
多様性を受け入れる社会の実現を目的として2017年10月に締結した「渋谷区 × 日本財団 ソーシャルイノベーションに関する包括連携協定」の基本方針を発展させるかたちで、2018年に柳井康治(個人)氏の発案により、渋谷区内の公共トイレをデザイン・クリエイティブの力で刷新する「THE TOKYO TOILET」が発足。個人のプロジェクトとして企画から資金提供までを行う柳井氏と日本財団のパートナーシップで、性別・年齢・障害を問わず誰もが快適に使用できる公共トイレが渋谷区内の17地区にて整備された。
そこで、非4K(臭くない、汚くない、暗くない、怖くない)を謳う渋谷区の新設トイレを総まとめ。後編では8人のクリエイターが手掛けた8箇所の公共トイレを、クリエイターの公式コメントと共に紹介する。
片山正通 / Wonderwall®︎
(インテリアデザイナー)
①恵比寿公園トイレ
住所:渋谷区恵比寿西1-19-1
田村奈穂 (プロダクトデザイナー)
②東三丁目公衆トイレ
住所:渋谷区東3-27-1
TRIANGLE
「年齢や性アイデンティティ、国籍や宗教、肌の色に関係なく、誰にでも訪れる生理現象を満たす場所、トイレ。けれど、個人のニーズというものが無限に多様であることがわかった今、社会が共有する『公衆トイレ』はどう変わっていけばいいのでしょう? 私の住むニューヨークの街ではLGBTQ+の人々が、自分の認識する性に正直に生きています。渋谷の片隅の小さな三角の土地にトイレをデザインするにあたり、彼らが、ありのままの『自分』を生きる姿を、ありのままを受け入れる社会を想像しながら突き詰めて考えてみた結果、トイレを利用するだれもが、快適な気持ちを同じように得られるために大切なのは、プライバシーと安全です。それを念頭に、個人の空間を再定義して3つの空間をデザインしました。造形のインスピレーションは、国際都市渋谷にやってくるビジターへのもてなしの気持ちをこめて、また、利用する人々を包み込む安全な場所にしたいという願いを込めて、日本の贈り物文化のシンボルである折形から得ました。社会に属するすべての人たちが、安全に、ハッピーに生活を営める社会に、そんな思いをデザインにこめたトイレです」(田村奈穂/プロダクトデザイナー)
NIGO® (ファッションデザイナー
/クリエイティブディレクター)
③神宮前公衆トイレ
住所:渋谷区神宮前1-3-14
THE HOUSE
「コンセプトは温故知新。まずはなによりトイレとしての入りやすさと使いやすさを第一に考え、高いビルが建ち並び、日々変わりゆく東京とは対照的に、原宿の片隅にひっそりと建つ、古き良き一軒家をイメージしました。世代によって、トイレを使われる方が懐かしくも感じ、新しくも感じていただけるようなデザインです」(NIGO®/ファッションデザイナー/クリエイティブディレクター)
佐藤可士和
(クリエイティブディレクター / SAMURAI代表)
④恵比寿駅西口公衆トイレ
住所:渋谷区恵比寿南1-5-8
WHITE
「『清潔』『安心』。恵比寿の駅前交番横のトイレは、毎日見る駅前のシンボルとして、極端に目立ちすぎない方がいいと考えました。入りやすく、使いやすく一歩引いた清潔な佇まい。恵比寿駅を利用する人々の気持ちが、少し明るく、清々しくなるように。トイレとして『当たり前な配慮』のひとつひとつに向き合ってデザインした『真っ白なトイレ』です」(佐藤可士和/クリエイティブディレクター / SAMURAI代表)
佐藤カズー / Disruption Lab Team
(クリエイティブディレクター)
⑤七号通り公園トイレ
住所:渋谷区幡ヶ谷2-53-5
Hi Toilet 手をつかわないトイレ
「60%がトイレのレバーを足で踏んで流し、50%がトイレットペーパーでドアを開き、40%がお尻でドアを閉め、30%が可能な限り肘を使い手の接触を避ける。欧米のとあるトイレに関しての調査結果を見て目が点になりました。このインサイトをデザインに生かそう。スタート地点はそこでした。そこから3年がかりでリサーチ&プランニングを行い、最終的に我々がたどり着いたのは、トイレにおける全ての行動を音声で行うボイスコマンド式のトイレ『Hi Toilet』でした。コロナのずっと前から取り組んでいたアイデアですが、非接触トイレという点で今までにないUXになると思います。日本の公共トイレの凄みが世界に伝わることでしょう」(佐藤カズー / Disruption Lab Team/クリエイティブディレクター)
外観デザイン協力:quantum
設計デザイン協力:久保都島建築設計事務所
ボイスコマンド協力:Birdman
※ボイスコマンドを利用せず、手を使ってのドアの開閉や便器の操作も可能です
後智仁
(クリエイティブディレクター・アートディレクター
/ WHITE DESIGN代表)
⑥広尾東公園トイレ
住所:渋谷区広尾4-2-27
Monumentum
「今回のプロジェクトの元となった『人は、みんな違うという意味で、同じである。』という思いを表現するトイレを作りたいと思いました。安全、安心、清潔はもちろん、全ての人に優しいトイレにしたい。多くの人の生活と多くの緑に囲まれた公園内ということもあって、パブリックアートの様に生活の中にありながら、人に常に何か問いかけてくる様な存在。このプロジェクトの意義を人に問い続けるモニュメントのようなトイレになったらいいなぁと思っています。世界人口と同じ79億通りのライティングパターンが、昼は木漏れ日の様に、夜は月明かりや漂う蛍のように変化し続け、二度と同じパターンを見ることはないでしょう」(後智仁/クリエイティブディレクター・アートディレクター / WHITE DESIGN代表)
マーク・ニューソン (インダストリアルデザイナー)
⑦裏参道公衆トイレ
住所:渋谷区千駄ヶ谷4-28-1
マイルス・ペニントン / 東京大学DLXデザインラボ
(教授)
⑧幡ヶ谷公衆トイレ
住所:渋谷区幡ヶ谷3-37-8
…With Toilet
「公共トイレが地域コミュニティの中心であろうとしたことが今まであったでしょうか。しばしば公共トイレは使われなくなり、地域にとっての価値を失い、次第に忘れさられてしまいます。そうさせないために私たちは「…With Toilet」をつくりました。公共トイレに別の機能をもつ空間を組み合わせた建築で、その第二の空間は、全ての人達がさまざまな用途に活用できます。展示スペース、ポップアップストア、情報センター、待合所など、地域コミュニティの中心として役立てられることを期待しています」(マイルス・ペニントン / 東京大学DLXデザインラボ/教授)
建築デザイン:東京大学生産技術研究所 今井公太郎研究室、本間健太郎研究室
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