これは「大阪駅のシンボル」を解く物語。
人気マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズで世界的に著名な荒⽊⾶呂彦(あらきひろひこ)先生が、クリエーターを起用して大阪駅⻄側エリアを多様なアート作品で演出する「⼤阪駅⻄側地区アートプロジェクト」(仮称)に参画。国内有数の交通ハブである大阪駅の西側地区にて新たなシンボルとなるパブリックアート制作に初挑戦している。
手掛ける作品の詳細は現時点ではシークレット。「設置場所・お披露目日・パブリックアートのモチーフ」のみ情報解禁されている。
既にJR西日本から、荒木飛呂彦先生が手掛けるパブリックアートの設置場所は、大阪駅周辺関連施設を包括する「大阪ステーションシティ」構想の虎の子プロジェクトとして大阪駅直上に建設中の駅ビル「イノゲート大阪」であると発表済み。
しかし、ピンポイントな地点までは明らかにされておらず、それは昨年3月18日に開設した大阪駅「西口」と「イノゲート大阪」を繋ぐコンコース付近と推測される。全貌は同駅ビルが完成披露される7月31日(水)まで待たねばならない。
いま、大阪駅は「西側地区」が熱い!
2024年5月現在、大阪・梅田地区では「うめきた2期地区」の開発、東海道線支線地下化と「大阪駅(うめきたエリア)」の新設、大阪中央郵便局跡地の「梅田3丁目計画」、そして地上23階・地下1階建ての巨大駅ビルとなるイノゲート大阪を含む「大阪駅西側地区開発」が同時多発的に進行中である。これら再開発計画を結節させて梅田の勢力圏を西側に拡大させるべく、JR西日本では新改札口となる「西口」を開設し、大阪駅西側を拡張・発展させる足掛かりにしているのだ。
「噴水小僧」の数奇な運命
そして、肝心要のパブリックアートのモチーフについて。それは1903年夏から2004年冬まで大阪駅のシンボルとして親しまれてきた高さ1.2メートルの銅像である「噴水小僧(ふんすいこぞう)」だ。ハスの葉を両手で頭上に掲げるスタイルは、荒木先生の作品でも踏襲されるのかもしれない。
ファッション業界で言うところの復刻・リバイバル扱いの「噴水小僧」のオリジナルは、2代⽬の大阪駅駅舎の開業時(1901年)に正面車寄せの左右に飾られていた2体だ。その後、駅舎の改修時に1体が⾏⽅不明の憂き目に遭い、残る1体が3代⽬駅舎の開業時(1940年)に中央コンコースの人工池に移設。1963年には準鉄道記念物に指定された。その後も4代目駅舎にも留まり続け、待ち合わせの目印として60余年を中央コンコースで過ごす。だが2004年3月、4代目駅舎の改修工事に伴い撤去されてしまった。
現在の5代目駅舎の完成(2011年)を目途に「噴水小僧」を再設する案も議論されたが、結局はJR西日本が運営する交通科学博物館に居を移したまま、2014年4月に同館が閉鎖するまで移譲されていた。現在は大阪を離れ、京都鉄道博物館(京都市下京区観喜寺町)で保管されている。
大阪駅の生き証人としての存在に昇華した「噴水小僧」とそれにまつわる物語は、荒木先生のインスピレーションを掻き立てたに違いない。
時空を超える荒木飛呂彦
JR西日本から発信された公式リリースを読んでみよう。「荒⽊⾶呂彦⽒による初挑戦のパブリックアートを通じて、『時空を超える悠久性』を感じ、⼤阪駅⻄側エリアの新たな創造の息吹に触れていただけることを期待」とある。そしてジョジョファンは気付くのだ。大仰なリリース文に呼応するワンシーンも『ジョジョの奇妙な冒険』に存在することを。
それは第6部『ストーンオーシャン』の作中、宿敵DIOとプッチ神父との会話のシーンだ。パリのルーブル美術館に所蔵されているモナ・リザとミロのヴィーナスについて、世界中から沸いて出る興味の視線に絶えずさらされている現況を踏まえ、「自分の魂を目に見える形にできる、まるで時空を超えたスタンド」であるとDIOが考察する。若かりしプッチに語るDIOは背を向けていたが、描き手である奇才・荒木飛呂彦の真摯な表情は解禁ヴィジュアルから伺える。物語が紡がれそうな気配さえある。
ちなみにルーブル美術館は、ローランス・デカール館長の鶴の一声によって、2023年1月より1日の来館者を3万人に制限することを決定。一方、JR大阪駅の1日の乗降者数はざっと30倍の90万人(国土交通省しらべ)であり、それ相応の人数が「西口」を利用すると推測される。「イノゲート大阪」のグランドオープンを契機に「西口」の利用者数もさらに増大し、加えて2025年4月13日からは大阪万博も開催され、大阪駅はさらなる賑わいが予想される。荒木先生が手掛けたパブリックアート「噴水小僧」も国内外で波紋を呼び、いつしか「時空を超えたスタンド」になってゆくのだろう。
詳細は徐々に明らかになる。今から7月31日(水)のお披露目が待ちきれない。続報を待とう!
To Be Continued.
荒⽊⾶呂彦先生に訊く、直撃Q&A
Q:今回のプロジェクトに参加した理由は?
荒⽊⾶呂彦:かつての⼤阪駅のシンボルで、今は京都鉄道博物館に保管されている「噴⽔⼩僧」が復活するということで、倉庫の奥にあったものがまた⽇の⽬を⾒るというのはロマンがあって良いんじゃないかと思い、お引き受けしました。
Q:「噴⽔⼩僧」のデザインに込めた想いは?
荒⽊⾶呂彦:噴⽔って⽔じゃないですか。⽔って循環している。⾬が降って、川に流れて、海に⾏って、蒸発して戻ってきて、という⾵にぐるぐる回っているものなので、そうした⽔の循環をデザインに取り⼊れようと思いました。
Q:今回のプロジェクトで⼤阪と荒⽊⾶呂彦⽒との間により⼀層強い縁が出来ましたが、もし⼤阪を舞台に物語を描くならどのような物語で、どんなキャラクターを登場させたいですか?
荒⽊⾶呂彦:やっぱり⾷べ物じゃないですかね。『ジョジョの奇妙な冒険』(第4部:編集部注)にトニオ・トラサルディーというキャラクターがいますけど、ああいうスタンドとかキャラクターがいいですよね。グルメ対決だったり、グルメの戦いで何かするっていうのはいいかもしれません。
Profile:荒⽊⾶呂彦(あらきひろひこ)
宮城県仙台市⽣まれ。1980年、集英社主催の第20回⼿塚賞(下期)にて「武装ポーカー」で準⼊選(入選受賞者なし)。代表作である『ジョジョの奇妙な冒険』は1986年12月2日発売「週刊少年ジャンプ」1987年1・2合併号にて連載スタート。2023年2⽉より同社「ウルトラジャンプ」に掲載媒体を移し、2024年5月現在はシリーズ第9部『The JOJOLands』を連載中。
☞オリジナルの「噴水小僧」
大阪駅の2代⽬駅舎の開業時(1901年)に正面車寄せの左右に飾られていた2体。その後、駅舎の改修時に1体が⾏⽅不明になり、残る1体が3代⽬駅舎の開業時(1940年)に中央コンコースの人工池に移設。1963年には準鉄道記念物に指定され、その後も4代目駅舎にも留まり続け、待ち合わせの目印として60余年を中央コンコースで過ごす。2004年3月、4代目駅舎の改修工事に伴い撤去。現在の5代目駅舎の完成(2011年)を目途に再設する案も議論されたが、JR西日本が運営する交通科学博物館に居を移したまま、2014年4月に同館が閉鎖するまで移譲されていた。現在は大阪を離れ、京都鉄道博物館で保管されている。
☞⼤阪駅の歴史と変遷
大阪駅の誕生は、旧・国鉄が神⼾駅から⼤阪駅までの区間で開業した1874年5⽉11⽇。今年で150年の節⽬を迎える大阪駅は、昨年3⽉に「⼤阪駅(うめきたエリア)」が開業して関⻄国際空港へのアクセスが更にスムーズになった。さらに関⻄の玄関口としての役割を果たすべく、関西高速鉄道が第三種鉄道事業者として整備し、完成後は西日本旅客鉄道および南海電気鉄道が第二種鉄道事業者として運行を担う「なにわ筋線」計画も難波エリアにて進行中で、2031年春に開業予定。⼤阪駅から関⻄国際空港までの所要時間も大幅に短縮され、海外へのアクセス向上とグローバルビジネスの拠点となる交通ハブとして期待される。
☞「イノゲート大阪」概要
高さ約120メートル、地上23階・地下1階建ての超高層駅ビルである「イノゲート大阪」は「交流とひらめきがカタチになる場所」をコンセプトに2024年7月31日に開業。大規模再開発が進む⼤阪西部地区の玄関⼝に位置し、多数のオフィスや飲食店が入居するほか、1階はJR大阪駅の新改札口として2023年3月18日に開設された「西口」と直結する。駅直上の利便性・「大阪駅(うめきたエリア)」接続によるグローバル性・緑豊かな都市公園を望む抜群の眺望など、人々が集まりやすい付加価値により「様々な交流が⽣まれ、ひらめきに発展し、それらがカタチになる」場所、そして「新たな価値を生み出し続ける出発点」を⽬指す。
パブリックアート「噴水小僧」
完成披露:2024年7月31日(水)
制作:荒木飛呂彦
設置場所:イノゲート大阪(大阪市北区梅田三丁目)