世界でヒットしている曲を内容まで理解して聴いてみるのはどうだろう? 今回は、1月のリリース以来、世界的ヒットを続けているマイリー・サイラスの「Flowers」を取り上げる。
合気道のように男性目線の失恋ソングを引用する妙技
今回は2023年1月のリリース以来、世界的ヒットを続けているマイリー・サイラスの「Flowers」。’70年代ディスコティークなサウンドにのせて、自身の離婚を連想させる別れ歌を力強く歌い上げる姿が印象的だ。
特筆すべきはそのサビの歌詞。ブルーノ・マーズの2013年リリースのヒット曲「When I Was Your Man」の歌詞を引用する形で、まるで当てつけのように、ことごとく正反対のことを歌う内容になっている。ちなみに、これはブルーノ本人に許可を取って作られているのだそう。
ブルーノの「When I Was Your Man」のサビを簡単に訳してみると、「君に花を贈ったり 手を握ってあげたりすればよかった 僕の時間をすべて君に捧げるべきだった もしチャンスがあるなら どのパーティにも君を連れて行くよ 踊りが好きな君を」といった内容で、一方、マイリーの「Flowers」の歌詞はどうなっているかというと、「花なんて自分で買えるわ 自分の名前を砂浜に書いたり 好きなだけ独り言を言ったり あなたが理解してくれないことも言ったり 一人で踊ったり 自分で自分の手をつなぐこともできる あなたよりもうまく 私は私を愛することができる」となっている。もちろんブルーノはマイリーの元夫でも何でもないのだが、「When I Was Your Man」の内容が元夫の姿とどこか重なるところがあったのかもしれない。いずれにしても、こういう形で過去のヒット曲を引用して新しい歌詞を生み出すのは、単純に手法として面白いし、これを許したブルーノの遊び心もまた粋で素敵である。
別れ歌というのは、その性質上、実体験に基づいて作られることが多い。未練や後悔や悲しみといった感情を、歌にして吹っ切ろうとするからである。つまり、もう吹っ切れている人はそのような歌は作らないので、別れ歌というのはその“別れ”を肯定しようとすればするほど歌が切なく響くことになる。
この歌もまた、サビの終わりで「あなたよりうまく 私は私を愛することができる」と自分を肯定する言葉が何度も繰り返される。もう吹っ切れたと言わんばかりに精神的なマウントを取ろうとする言葉が胸を締めつける。
いしわたり淳治
作詞家、音楽プロデューサー。1997年、バンド「スーパーカー」のギタリストとしてデビューし、すべてのギターと作詞を担当。現在までに700曲以上の楽曲を手がけている。