「ヒップホップとは」を長谷川町蔵さんが初心者にもわかりやすく解説する。
『Ludaversal』リュダクリス
リュダクリス 復活の巨大アフロを君は目撃したか?
2024年2月11日に開催されたスーパーボウルで、圧巻のハーフタイム・ショーを繰り広げたR&Bキング、アッシャー。そのラストを飾った曲は、今を去ること20年前に12週にわたってチャート首位に君臨し続けた「YEAH!」だった。これまでこの曲を聴いたことがなかったという人も、中毒性のあるシンセサイザー・リフと熱いヴォーカルの魅力にヤラレたはず。ただし曲の後半に乱入してきた巨大アフロヘアのラッパーには「この人、誰?」と困惑したのではないだろうか? でも彼を知らない人などいないはずなのだ。なぜなら、あの『ワイルド・スピード』シリーズで腕ききメカニックのテズを演じ続けているクリス・“リュダクリス”・ブリッジスこそが正体だから。
アトランタ出身の彼が、巨大なアフロヘアをトレードマークに、笑いと下ネタを高度なスキルでラップしまくってスターになったのはゼロ年代初頭のことだった。その人気を当てこんで、彼には客演のオファーが殺到。粘っこいラップ・パートは主役以上の評判を呼んだ。ゼロ年代以降に彼が絡んだ大ヒット曲には前述の「YEAH!」のほか、ファーギー「グラマラス」やジャスティン・ビーバー「BABY」などがある。
そしてそのコミカルなキャラが買われて『ワイルド・スピードX2』(’03)で俳優デビューしたわけだが、続けて出演した群像劇『クラッシュ』(’04)が彼の人生を変えてしまった。アカデミー作品賞を受賞した同作で演技が絶賛されたことをきっかけに演技に開眼、幅広い役を演じられるようにと、トレードマークのアフロを刈って坊主頭になってしまったのだ。その後は『ワイルド・スピード』シリーズのレギュラー・メンバー入りし、氷上を走ったり、宇宙を飛んだりと、「テズの中の人」扱いされるようになってしまったのである。
そんな俳優業の多忙さから2015年の『Ludaversal』を最後に新作リリースが絶えているリュダクリスだが、出番さえ与えられれば場を支配する「華」を今も失っていないことはスーパーボウルで証明したはず。これを機にアフロのヅラをかぶってラッパー業を再開してほしいものである。
文筆家。とてもわかりやすいと巷で評判の、大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1〜3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。