2025.02.19
最終更新日:2025.02.19

『Business Is Business』ヤング・サグ|“若頭”お務めご苦労さんでした!【超初心者のためのHIPHOP STARTUP|長谷川町蔵】

「ヒップホップとは」を長谷川町蔵さんが初心者にもわかりやすく解説する。

『Business Is Business』ヤング・サグ

『Business Is Business』ヤング・サグ
YOUNG STONER LIFE RECORDS

ヤング・サグ “若頭”お務めご苦労さんでした!

 2024年10月31日、ヒップホップ界に激震が走った。’22年5月に主宰レーベル「ヤング・ストーナー・ライフ・レコーズ(YSL)」所属のラッパーやスタッフ27名とともに逮捕され、生涯を塀の向こうで送るかもと言われていたヤング・サグが奇跡の出所を果たしたのだ。この逮捕が話題になったのは彼の罪状が悪名高きRICO法(威力脅迫及び腐敗組織に関する連邦法)の適用によるものだったから。ジョージア州フルトン郡を牛耳るギャング「ヤング・スライム・ライフ(YSL)」の構成員だったサグは、その事実を若干盛り気味にラップし続けていた。ギャングスタ・ラッパーなら誰でもやることである。しかしRICO法を適用すると「俺がYSLの首領」とかラップしただけでも、別の構成員が行った犯罪に共謀していたことになってしまうのだ。

「実際のギャング活動になんかかかわっていない」「でも仲間を売りたくない」。二つの意識の中で揺れ動いたサグは、2年半もの間持ちこたえた。そして銃器の違法所持など自分の罪だけを認め、共謀罪については否定も肯定もしない立場を示すことで、15年間の保護観察を条件に帰宅を許可されたのだった。筋を貫いたサグの帰還に地元アトランタのシーンは歓喜。リル・ベイビーからは「おまえがいなくて寂しかったぜ、ブラザー! 無事に帰ってきてくれて感謝だぜ」と祝福を送られている。

 一方、出所によって微妙な立場に立たされたラッパーもいる。かつて右腕的存在だったガンナである。実は彼も’22年に逮捕されていたのだが、すぐに釈放されている。ガンナはヒット曲を連発し、サグ不在のYSLを支え続けたのだが、その一方で「知っていることを洗いざらい吐いたから無罪放免扱いになったのでは」との疑惑が囁かれ続けたのだった。それでも多くのファンは二人の固い絆を信じていたのだが、サグは出所後すぐに「ガンナ、ネット上で友達のフリをするのはやめろ。俺はおまえのことなんて知らん」とXに投稿して動揺を与えている。くれぐれも仁義なき戦いは控えてほしいもの。何かあったらサグはすぐに塀の向こうに逆戻りしてしまうのだから。

長谷川町蔵

文筆家。とてもわかりやすいと巷で評判の、大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1〜3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。

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