「ヒップホップとは」を長谷川町蔵さんが初心者にもわかりやすく解説する。
『$ome $exy $ongs 4 U』パーティ・ネクスト・ドア & ドレイク

ドレイク 要「ケンドリックとのビーフ大反省会」
2月9日に開催されたスーパーボウルのハーフタイム・ショーで、キレッキレのパフォーマンスを魅せたケンドリック・ラマー。しかしその一方で「今あいつ、息してるかな?」と心配されているラッパーがいた。昨年のビーフ合戦で敗北したドレイクである。無理もない、勝敗を決したケンドリックによるディスソング「Not Like Us」が、司会役のサミュエル・L・ジャクソンによる「あの曲は絶対やるなよ、絶対だぞ」というダチョウ倶楽部ばりの前振りを何度も行った末に演奏されたのだから。
その頃、ドレイクはオーストラリアでツアー中だったのだが、道中「なぜ俺は負けたのか」と自問自答していたことだろう。個人的には、ケンドリックのラップに対して普通にラップで応じてしまったのが彼の敗因だったと思う。ケンドリックはツッコミどころがとても少ない人だからだ。ドレイクがディストラックで挙げ連ねた「身長が低い」「俺より売れてない」は単なる事実だし、パートナーへのDV疑惑もケンドリックが自らの作品で吐露したものである(しかも現在は関係が修復されている)。
一方、ドレイクは「俺は真実の愛を求めているだけやのに、金目当ての女しか寄ってこんのや」というお笑い芸人的なスタンスで私生活を切り売りしていたため、若い女の子好きとか隠し子疑惑とか、ディスのネタには事欠かない。そんなドレイクの勝ち筋を考えるとするなら、それはケンドリックの攻撃をまるっと肯定したうえで、自分の最も得意な“笑えるラブソング”をアンサーソングとして歌うことだったはず。そうすれば「ドレイクのほうが大人じゃん」と賞賛されたかもしれないのに。バレンタインデーにリリースされた舎弟のパーティ・ネクスト・ドアとのコラボ・アルバム『$ome $exy $ongs 4 U』のバカバカしいけど切ないラブソングの数々を聴くと、なおさらそう思う。ちなみにドレイクは現在「自分の悪口を全国放送で言いふらした」との理由でケンドリックを訴えるという噂もあるのだが、それはやめたほうがいいと思う。クラスメイトとの口ゲンカで負けて、先生に泣きつくくらいダサいことだから。
文筆家。とてもわかりやすいと巷で評判の、大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1〜3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。