「ヒップホップとは」を長谷川町蔵さんが初心者にもわかりやすく解説する。
『GLORIOUS』グロリラ
グロリラ 成功の条件を満たした大型新人
ラッパーはどのようにプロ・デビューするのだろうか? 小さなライブハウスでパフォームしているところを、偶然観ていたレコード会社のスカウトが衝撃を受けて契約を申し出てくる…なんてロックバンドみたいなパターンは、まずない。現在、主流となっているパターンは次の二つ。一つはネットにアップした自作曲がバズって、レーベルから契約がオファーされるパターン。もう一つは、実力を認めた地元の先輩ラッパーからクルー入りを誘われるパターンだ。ただしそれだけでプロ扱いはまだ早い。週に何千とリリースされる楽曲の中からヒップホップ・コミュニティ(メディアとマニア)に認めてもらわないと、インターン扱いすらしてもらえない。さらにヒップホップ・マガジン「XXL」が毎年、期待の新人を選ぶ(表紙にも載る)恒例企画「Freshman Class」に選ばれることも欠かせない。日本のお笑いにおける「M-1グランプリ」のファイナリストに値するこのリストに入って初めて、一般リスナーに“新人”として認知されるからだ。
以上の関門をすべてクリアした大型新人が、10月に正式なデビューアルバム『GLORIOUS』を発表したばかりのフィメール・ラッパー、グロリラだ。1999年にテネシー州メンフィスで生まれた彼女は、10代のときにキャリアをスタート。以来、地道な活動を展開していたが、2022年4月にネットにアップした「F.N.F.(Let’s Go)」におけるノリノリのフロウがウケて、TikTokで140億回以上も再生されるバイラルヒットに。すると、メンフィスの重鎮ヨー・ゴッティから「ウチの組に来ねえか」と誘われ、7月に彼の主宰するCollective Music Groupと契約を締結したのだ。翌年の夏には「Freshman Class」にも選ばれ、2024年に発表したシングル「Yeah Glo!」「Wanna Be」はいずれもヒット。『GLORIOUS』もビルボード・チャートで最高5位を記録するなど、華々しい成功を収めている。彼女の将来は盤石…と言いたいところだけど、ラッパーには根強いソフォモア・ジンクス(第二作がコケる)も存在する。それについても、いずれ書きたいと思う。
文筆家。とてもわかりやすいと巷で評判の、大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1〜3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。