2023.07.05

『Ventura』アンダーソン・パーク|ルーツと運命のステージネーム【超初心者のためのHIPHOP STARTUP|長谷川町蔵】

「ヒップホップとは」を長谷川町蔵さんが初心者にもわかりやすく解説する連載の第10回目。今回は、ブルーノ・マーズとのユニット、シルク・ソニックの大成功も記憶に新しい、アンダーソン・パークのルーツについて。

『Ventura』アンダーソン・パーク|の画像_1

今回のアーティスト&作品

アンダーソン・パーク_Ventura


『Ventura』
アンダーソン・パーク

Warner Music Japan


 2018年のフジロックフェスティバルで、ドラムをたたきながらラップ・シンギングする唯一無二のスタイルで観客を興奮の渦に巻き込んだアンダーソン・パークが、ブルーノ・マーズとのユニット、シルク・ソニックの大成功を経て、5年ぶりに同フェスに帰ってくる。


 かつてアンダーソンはブリージー・ラブジョイなるステージネームで活動していたのだが、本気で音楽に打ち込むことを決意した際に、母の旧姓「パーク(朴)」を名乗るようになった経緯をもつ。そう、彼はアフリカ系と韓国系のミックスなのだ。しかしなぜアフリカ系音楽の世界で、わざわざ韓国系のルーツをレペゼンするようになったのだろうか?


 実はアンダーソンは大人になるまで韓国文化について何も知らなかった。母親が朝鮮戦争の戦争孤児で、ロサンゼルスの黒人家庭に養子縁組された人だったため、あくまでアフリカ系アメリカ人として育ったからだ。しかし運命とは面白い。まだキャリア模索中だった2011年に恋に落ちて結婚した相手は、韓国からの音楽留学生。彼は、生まれた息子を育てるために、稼ぎがいいマリファナ農場で働き始めたが、突然クビになってしまい、妻子持ちでありながらホームレスになってしまう。


 そんな大ピンチを救ってくれたのも韓国系のラッパー、ダムファウンデッドだった。彼はアンダーソンを自宅に居候させてくれたばかりか、スタジオを自由に使わせてくれた。そこで作ったデモテープが業界で評価され、アンダーソンのキャリアは一気に好転したのだ。


 こうした経験があったことで、アンダーソンは「朴」を名乗らずにはいられなかったのだろう。現在の彼は夫人からあらゆる韓国文化を習得したばかりか、『K-POPS!』と題した監督兼主演映画まで構想中だ。同作はアンダーソン自身が演じる落ち目の音楽家が、韓国に渡ってKポップの裏方として働くというハートウォーミングなミュージカル映画らしい。



長谷川町蔵
文筆家。とてもわかりやすいと巷で評判の、大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1〜3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。


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