「ヒップホップとは」を長谷川町蔵さんが初心者にもわかりやすく解説する連載の第7回目。今回は、非ラッパーのアーティストとしては空前の成功を収めている、DJキャレドによる最新アルバム『God Did』について。
今回のアーティスト&作品
『God Did』
DJキャレド
ヒップホップDJといえば、ラッパーの背後でストイックにターンテーブルを操っている縁の下の力持ち的存在。そう考えるヒップホップ・ファンは多いはずだ。事実ほとんどのDJがそうなのだが、DJキャレドに限って言えば当てはまらない。自分名義のアルバムを毎年のように発表しているし、収録曲の冒頭では必ず「ウィ・ザ・ベスト・ミュージック、DJキャリー!(と聞こえる)」と雄叫びをあげて「俺が主役」と自己主張。MVを見てもターンテーブルには手を触れず、ラッパーと一緒にドンペリ片手にウェイウェイ盛り上がっていたりする。
それもそのはず、彼はもともとマイアミで大人気を博していたラジオ番組「Take Over」のディスクジョッキー。つまり本来の意味でのDJだったのだ。だから自分自身でサウンドを作ることにさほどこだわりはない。むしろ彼が得意なのは、ヒットしそうなトラックを見つけてきて、それにぴったりのラッパーをコーディネートすることだ。こうした手法で製作された楽曲を集めたアルバムによって、彼は非ラッパーのアーティストとしては空前の成功を収めている。
キッズ・アイドルだったジャスティン・ビーバーが強面のラッパーたちに認められたのは、ビーバーのシンガーとしての個性を認めたDJキャレドが自分のアルバムのゲストに再三招いたことがきっかけである。4作目の米ビルボードアルバムチャート首位に輝いた最新アルバム『God Did』もジェイーZやドレイクなど豪華ゲストが大集結。ドクター・ドレー作のトラック上でエミネムとカニエ・ウェストがマイクを交わすという、信じられない楽曲も収録されている。
そんなDJキャレドにとっての「God」とはジーザスではなく、アラーである。中南米系のように見えるルックスの彼だが、実はパレスチナ系のイスラム教徒。本名はキャレド・モハメッド・キャレドという。そんな彼の大成功を見ていると、東アジア系のDJも続いてほしいと思わずにはいられないのだった。
長谷川町蔵
文筆家。とてもわかりやすいと巷で評判の、大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1〜3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。