「ヒップホップとは」を長谷川町蔵さんが初心者にもわかりやすく解説する連載の第4回目。今回は、監房から厨房へ、ふたつの顔をもつギャングスタ・ラップ界のスター、スヌープ・ドッグを取り上げる。
今回のアーティスト&作品
『スヌープ・ドッグのお料理教室
ボス・ドッグのキッチンから60の
プラチナ極上レシピ』
スヌープ・ドッグ
晶文社 ¥3,410
NFLのスーパーボウルのハーフタイム・ショーといえば、世界を代表するミュージシャンが出演することで有名だ。今年その大役を務めたのは、ヒップホップ史上最高のプロデューサー、ドクター・ドレーだった。ドレーと一緒にステージに上がったのは、彼が育てあげたエミネムやケンドリック・ラマーといったスターラッパーたち。その中でも段違いの大物感を漂わせていたのが、スヌープ・ドッグだ。
銃やドラッグといった物騒なトピックをラップするギャングスタ・ラップ界の新鋭として、スヌープがドレーに発掘されたのは彼がまだ10代のときだ。スヌープの登場はまさに革命だった。当時のギャングスタ・ラッパーといえば、ドスのきいた声ですごむのがお約束だったのに、彼のラップは一聴すると優しげでスムーズだったからだ。でも歌詞はバイオレンスの嵐!
このギャップが、「こいつマジでヤバいやつなんじゃないか」と受け取られ、デビューと同時にスターに。長身で小顔なため、アイドル的な人気も博した。以来、アルバムセールスは全世界で4000万枚を超える。実はここ10年くらいヒットアルバムが出てないのだけど、けっして人気が落ちたわけではない。むしろポピュラーになりすぎて「アメリカ人にとっての日常」になってしまったという表現が正しい。なにしろアメリカを代表するカリスマ主婦マーサ・スチュワートと、二人で料理番組の司会を務めるほどなのだ。
私生活でも大親友というマーサの後押しもあって、料理本『スヌープ・ドッグのお料理教室 ボス・ドッグのキッチンから60のプラチナ極上レシピ』を刊行。日本語版も発売された。紹介されているレシピはソウルフードをはじめアメリカでは一般ウケしそうなものばかりだ。にもかかわらず本国版のタイトルが『From Crook to Cook(監房から厨房へ)』だったりと、けっして初心を忘れていないスヌープなのだった。
長谷川町蔵
文筆家。とてもわかりやすいと巷で評判の、大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1〜3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。