2025.03.21
最終更新日:2025.03.21

『僕はメイクしてみることにした』|平凡な38歳・独身サラリーマンがメンズメイクに目覚めたら…!?【このマンガの実写化が見たい!|南 信長】

数ある漫画の中から実写にしてほしい作品を、マンガ解説者の南 信長氏が紹介する。

『僕はメイクしてみることにした』

僕はメイクしてみることにした 1
Ⓒ糸井のぞ・鎌塚亮/講談社

平凡な38歳・独身サラリーマンが
メンズメイクに目覚めたら…!?

 私の記憶が正しければ、メジャーな男性誌でメンズメイクをポジティブなものとして扱ったのは、1986年創刊の「MENS’NON-NO」が最初だったと思う。あれから40年を経て、本誌でも美容やメイクの記事は珍しくない。

 とはいえ、「男が化粧をするなんて」という感覚をもつ人は令和の今も存在する。今回ご紹介する作品の主人公もそうだった。メーカー営業部勤務の前田一朗(38歳・独身)。仕事に追われてお疲れのある日、鏡に映った自分の顔の荒れ果てっぷりに愕然とする。今まで何のケアもせずほったらかしで、「むしろそういうことに時間かけるのは男として恥ずかしいって思ってた」が、目の前に突きつけられた現実に「このままじゃダメだ」と一念発起。とりあえず適当に買った化粧水をつけて寝た翌朝、肌がちょっとモッチリしているのに感動する。

僕はメイクしてみることにした 2

 そこから彼のメイク道が始まった。ドラッグストアで出会ったコスメおたくの女性を師匠として、洗顔、保湿、UVケア、ベースメイク、さらにはリップ、ネイルへと進んでいく。新しい世界を知る楽しさ、やればやっただけ結果が出る喜びが、画面からあふれんばかりに伝わってくる。メイクしていることを会社の人たちに知られるのが怖いけど気づかれたい――という矛盾した感情に戸惑う姿も新鮮だ。

 “男はこうあるべき”という偏見から発せられる言葉に傷つくこともあるが、一朗自身の中にも思い込みや固定観念はある。ほかの登場人物たちも、容姿や才能に対する劣等感、仕事や家事・育児への過度な使命感や義務感を抱えている。そこからいかに自由になるかが、本作の大きなテーマ。メイクという自分を見つめ直す行為を通して、年齢や性別にとらわれない生き方の選択を描く普遍的な物語となっている。

 存在感あるキャラの揺れ動く心理を繊細な筆致で描く。メイク前後の顔の描き分けも巧み。おすすめスキンケア&メイクアイテムが具体的な商品名まで挙げられているのも初心者には心強い。マンガではなかなか細かい手順までは伝えられないが、実写化すればハウツー動画的な役割も期待できる。ただし、特定のコスメメーカーをスポンサーにつけるのはNG。本当にいいものをフェアな視点で紹介してほしい。

『僕はメイクしてみることにした』コミック

『僕はメイクしてみることにした』
糸井のぞ著/鎌塚亮原案
全3巻/講談社

メイクに目覚めた主人公が、洗顔、保湿からベースメイク、リップ、ネイルへと新しい世界の扉を開けていく。単なるハウツーではなく、自由な生き方を示すポジティブドラマ!

南 信長

マンガ解説者。朝日新聞ほか各雑誌で執筆。著作に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『漫画家の自画像』『メガネとデブキャラの漫画史』など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。

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