数ある漫画の中から実写にしてほしい作品を、マンガ解説者の南 信長氏が紹介する。
『東大の三姉妹』
おっとり型の末っ子長男から見た
優秀すぎる東大三姉妹の生態とは!?
2024年度の東大合格者の女子率は20.6%(学校推薦含む)。東大新聞オンラインの記事によれば、合格率(2023年度)では男子32.5%、女子31.2%と大差ないので、そもそも女子で東大を受験しようという人が少ないのだ。
そんななか、本作の主役・坂咲家は三姉妹そろって東大(たぶん母親も東大)という激レア一家。長女・世利子(34)は外資系企業のバリキャリ、次女・比成子(32)はテレビ局のプロデューサー、三女・実地子(22)は理系の現役東大生でカビの研究をしているらしい。
そして坂咲家にはもう一人、末っ子の長男・一理(18)がいる。まさに東大理Ⅰに入ることを運命づけられたような名前と環境。合格発表の日、当然合格するものと思っている姉たちは前祝いで飲み始める。ところが結果は不合格。「うそ…落ちることってあるんだ…!?」と驚愕したのは、姉妹の中でも一番優秀な世利子である。ほかの二人も「私大に行くの?」「まさかね!? 浪人するよね?」と口々に言う。
こんな姉たちに囲まれながらひねくれずに育った一理も立派。私大の演劇科に進学することにした彼は、春休みの間、比成子のテレビ局のバイトに駆り出される。そこで見た比成子の八面六臂の仕事ぶりに感心しつつ、一理自身も意外と“使えるヤツ”であることが判明。一方の比成子は「やっぱり女で若くしてPになったのって東大だから?」と陰口を叩かれ、担当ドラマ出演者の不祥事が発覚すれば「東大とか出ててもほんと仕事できないな!」などと、いわれなき中傷を受ける。男女を問わず“東大卒あるある”だが、そのへんの心理描写は絶妙。そこで急遽代役を手配し撮り直しするエピソードは、お仕事ドラマとしての爽快感に満ちている。
一方、物語の軸になりそうなのが、少々変わり者の世利子である。自分の計画どおり人生を進めたい彼女は、なんとアメリカの精子バンクを利用し妊娠したという。世利子と高校時代の先生との関係、比成子が学生時代から付き合っている彼氏との倦怠、今後出てくるであろう実地子の事情など、気になる要素が山盛り。ジェンダー格差が注目される今、「東大女子の生きづらさ」は時宜を得たテーマだし、何より三姉妹と一理のキャスティングに妄想が膨らむ。
『東大の三姉妹』
磯谷友紀 1巻/小学館
三姉妹全員東大という坂咲家。が、末っ子長男・一理は不合格。そんな折、長女・世利子がまさかの妊娠を告白し…。東大女子の人生を見つめるファミリードラマ、ここに開幕!
マンガ解説者。朝日新聞ほか各雑誌で執筆。著作に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』『漫画家の自画像』など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。