数ある漫画の中から実写にしてほしい作品を、マンガ解説者の南 信長氏が紹介する。
弱者からカネを搾取するペテン師に異色の経済学者が毒をくらわす!
団塊世代をメイン読者とする週刊誌で最近よく目にするのがハウスリースバックの広告だ。自宅を売却後も同じ家に住み続けられるというが、当然タダではなくそれなりの家賃を支払わねばならず、正直うさんくさく思っていた。そのもやもや感の正体を教えてくれたのが本作だ。
主人公は異色の経済学者・加茂洋平。「経世済民」を語源とする経済学とは「世を治め、民を救う」ための学問であり、「人を考える学問だ」というのが持論。一方で「カネ稼げないヤツは経済学者を名乗る資格がない」と豪語し、自身は巨万の資産をもつ。大学教授でありながら学生にはクイズのような課題を出すだけで、授業は休講ばかり。その代わり、フィールドワークと称してさまざまな現場に潜入する。
弱者からカネを搾取するペテン師たちの手口は巧妙。しかし、加茂はその数段上をいく。相手の強欲さを利用して、逆に相手をカモにする。その洞察力と論理的戦略は、経済学者というより心理学者のよう。痛快などんでん返しには思わず拍手。『LIAR GAME』など勝負師ものを得意とする作者のストーリーテリングは絶品だ。
最新5巻で描かれるのは、独居高齢者を食い物にするビジネス。そこで明かされるハウスリースバックの手口には戦慄する。もちろん良心的な業者もあるだろうが、こういう罠があることや対抗手段は知っておいて損はない。情報拡散で被害に遭う人を減らす意味でも地上波でドラマ化してほしい。ただし、詐欺師は常に新しい手口をひねり出すので油断は禁物だ。
『カモのネギには毒がある』
甲斐谷忍 夏原武(原案)
1~5巻/集英社 グランドジャンプ連載中
天才経済学者・加茂洋平は、フィールドワークと称して弱者搾取ビジネスの現場に潜入、逆に相手をカモにする。知略を尽くしたどんでん返しが痛快な経済エンタテインメント。
南 信長
マンガ解説者。朝日新聞ほか各雑誌で執筆。著作に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。
Ⓒ甲斐谷忍プロダクツ・夏原武/集英社