数ある漫画の中から実写にしてほしい作品を、マンガ解説者の南 信長氏が紹介する。
田舎暮らしのジジイたちの楽園に 突然現れた謎めいた美女の正体は?
8・9月合併号で紹介した『ゆりあ先生の赤い糸』は校了後にドラマ化が発表され、なんだかマヌケな記事になってしまった。今回の『僕らが恋をしたのは』も、すでにドラマ化か映画化が決まっていそうな気がする。そう思うのには根拠があって、まず登場人物が少ない。舞台はほぼ1カ所。そこで展開される男と女の洒脱で謎めいたストーリーが4巻できっちりまとまっているのだから、実写化には最適なのである。
山奥の別荘地で田舎暮らしを満喫する初老の男たち。プレイボーイの「キザ」、おっとりした「大将」、アウトドアの達人「ドク」、インテリ風の「教授」と、4人は互いをあだ名で呼び合う。キザと大将は旧友だが、ドクと教授の過去は謎。そんな男の楽園に、ある日突然、一人の美女が現れるところから物語は始まる。
さすが元女優というべきか、お嬢は4人それぞれに思わせぶりな態度をとる。しかもウソの身の上話をしては「皆には秘密ね」などと言う。年齢層は高いが、いわゆるサークルクラッシャーの匂いがぷんぷん。実際、キザと大将はコロッと術中にハマり、お嬢にいいところを見せようと張り合いだす。しかし、海千山千のドクは彼女が何かの理由があってやってきたらしいことを察知。どうやら彼女は教授の過去を知っていて、とある目的を果たす機会をうかがっているようで…。
作者ならではの無国籍でスタイリッシュな世界観をどこまで実写で再現できるかわからないが、必然的にアイドルではなくベテラン役者のキャスティングになるのも期待大だ。
『僕らが恋をしたのは』
オノ・ナツメ 全4巻/講談社
田舎暮らしを楽しむ男たちの楽園に謎の美女が現れる。元女優という彼女は4人の男それぞれに思わせぶりな態度をとり…。酸いも甘いも嚙み分けた男と女の洒脱な人生の物語。
南 信長
マンガ解説者。朝日新聞ほか各雑誌で執筆。著作に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。
Ⓒオノ・ナツメ/講談社