マンガの中には心揺さぶられる名言がたくさんある。そんな名言の数々を、現在連載中の作品から劇画狼がピックアップ! 来世で使いたいと思ってしまう名セリフを紹介します。
『劇光仮面』
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『劇光仮面』百目舌郎に学ぶ、
圧倒的「説得力」!
文明社会に生きる我々にとって最も重要な能力、それは「自らの言葉に説得力を持たせる力」。世の中のほとんどの取り決めは暴力ではなく対話で決まっている以上、我々は自らの意見を通すために言葉を磨かなければならない。ではそのためにどうするか。
説得力のある話し方の基礎には、「相手が分かる言葉で話す」「状況に合わせた例え話を交える」「共感できる事柄を盛り込む」そして「曖昧な言葉を使わず断定的な口調を使う」などがあるが、常軌を逸した方法でこれをクリアするのが今回紹介する百目舌郎だ!
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『劇光仮面』6巻から登場する百目は、好意を持った女性を標的とし、躾と称した「飼育」で希望や尊厳を奪いつくす変態玩具設計技師。その百目は新たな獲物として本作のヒロイン・真理りまに狙いを定める。
獲物を狩るために百目は半年間かけて真理りまの好みの体形に肉体改造するだけでなく、ハンターが標的と同じものを食べて自らの体臭を標的と同化させ警戒心を解き接近するかの如く、真理りまが愛用する石鹸や化粧品を準備し、同化させるために自らの肌にも使用……え、食べるんですか?
食べるそうです。百目舌郎氏、真理りまが肌に使っている石鹸と化粧品を、短期間で同化するために食べるそうです。
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そして生クリームやココナッツミルクを使って建前上「調理品」ということにした上でこれを食し、出た言葉が「メスダヌキのケツ穴の味だ」だそうです。
これは分からない。元々分からない石鹸や薬品の味の比喩として、もっと分からない「メスダヌキのケツ穴」を挙げるのは本当に分からない。人間のケツ穴の味が分かる人は多少はいるのかもしれないが、メスダヌキのケツ穴の味は本当に分からない。誰もが納得できる味の説明かと言われるなら、一切そんなことになっていない。
だがしかし、それと引き換えに百目は「一切分からない行動」に「一切分からない感想」を掛け合わせてプラスの説得力を持たせるやり方で強引に読者全員を納得させ、「相手が分かる言葉で話す」という基礎中の基礎を無視して「問答無用こいつはヤバい奴だ」と思わせることに成功している!
君たちには理解できるか? このコラムの最初に並べた基礎なんかで、超一流の変態を測ることなんてできないんだよ! こんな言葉、現世で使えるわけがない!
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『劇光仮面』6巻
山口貴由/小学館
ビッグコミックスペリオールで連載中
都内で発生した猟奇事件の犯人かと疑われ社会的信用を失っていく真理りまに、怪人・百目が迫る…! リアル特撮物語、新展開!
特殊出版レーベル・おおかみ書房代表。プロの漫画家が商業誌に掲載したが単行本化されなかった未収録作品の書籍化や書評、原画展企画、イベント司会など。