マンガの中には心揺さぶられる名言がたくさんある。そんな名言の数々を、現在連載中の作品から劇画狼がピックアップ! 来世で使いたいと思ってしまう名セリフを紹介します。
『花のチハル』
アイツにだけは負けられない…
柴千春に学ぶレッドクイーン理論!
さて、賢明なるUOMO読者諸君は、レッドクイーン理論というものをご存じだろうか。これは元々は『鏡の国のアリス』で、赤の女王が「同じ場所にとどまるためには、絶えず全力で走っていなければならない」と言ったことに由来し、進化生物学の分野において「物種の進化が競争的な相互作用の中で進んでいくこと」、転じて「ライバルと競争する中で成長が生まれる」という考え方のことだ。心理学の分野でも「代理強化」や「目標感染」という言葉があるように、人間というものは周りの人間を意識することでモチベーションに変化が出ることが証明されている。つまり「いかに適切な仮想ライバルを設定するか」、今回はそういう話。マンガの世界にも、大空翼と日向小次郎、桜木花道と流川楓、ジョセフとシーザー、マキバオーとカスケードなどなど、互いに意識しあうことで高みに到達したキャラクターが多数存在するが、いま最も高いレベルでライバルと切磋琢磨しているマンガキャラは誰か!?…千春だ。その答えは柴千春だ。
柴千春といえば、常軌を逸した根性のみでボクシング世界チャンピオンと互角の戦いを繰り広げたことなどで知られる『刃牙』シリーズ屈指の人気キャラだが、彼を主人公にしたスピンオフ作品『バキ外伝 花のチハル』2巻にて、その不屈の精神が「誰を仮想ライバルとして成り立っているのか」が描かれる。この巻ではなんと、『バキ』大擂台賽編にてオリバと激戦を繰り広げた凶人・龍書文が千春の暗殺依頼を受けて上京し千春と決闘開始。いつも通りの気合と根性の喧嘩で龍を驚かせた千春だが、龍のハンドポケットからの抜拳術には手も足も出ず、全身の骨を砕かれて地面に叩きつけられて敗北寸前に。勝負は決したと思われたが、千春はここから心の中のライバルに意地を張り、「あいつに出来るのなら俺だって」と、人間の限界を超えて立ち上がる。そのライバルとは…釈迦! 釈迦は生まれてすぐに立ち上がり、7歩歩いて「天上天下唯我独尊」と言ったと伝えられているが、千春は言う。「生まれてすぐに立つ事もできねェ……しゃべる事もできなかったテメェ自身に、自立する(ツッパル)って決めてンのよ!!」。常識を超えるイメージで不可能を可能にするために…人類の歴史すべての中から、絶対に負けられないライバルを探し出せ!!
『花のチハル』
板垣恵介(監修) 尾松知和(漫画)
1~2巻/秋田書店
『刃牙』シリーズの人気キャラ、特攻隊長・柴千春の衝撃のエピソードと戦いを描いたスピンオフ!
特殊出版レーベル・おおかみ書房代表。プロの漫画家が商業誌に掲載したが単行本化されなかった未収録作品の書籍化や書評、原画展企画、イベント司会など。