マンガの中には心揺さぶられる名言がたくさんある。そんな名言の数々を、現在連載中の作品から劇画狼がピックアップ! 来世で使いたいと思ってしまう名セリフを紹介します。
『蜜を追う』
『蜜を追う』小泉さんに学ぶ、
「置かれた場所で咲く」ということ
皆さん! 人生と仕事、かみ合ってますか!? 人から感謝されたとき。目標を達成して評価されたとき。新しいことに取り組んで自分の成長を感じられたとき。仕事の中に楽しさを見つけたいと考える人たちのため、世の中には前向きに仕事や人生と向き合っていくための啓発が溢れてます。……でもあれ、実は全部ウソらしいですよ! 仕事、どれだけ小細工を弄しても基本「やり始めたくない」ですからね。世の中もっと「マイナス10のモチベーションをなんとかする」後ろ向きな仕事術で溢れてほしいところですが、新刊マンガの中に最高のお手本となる職人がおられました!
絶望的な「やりたくなさ」を反転させてプロの職人の意地を見せた男、イズミベーカリー店主・小泉さん! パン屋は売り上げも芳しくなく、認知症の母親の介護にも疲弊。更に娘が起こした事故で多額の慰謝料も発生し、「なんでパン屋なんて目指しちまったんだ」と葛藤する日々。
そんな苦しい日々に追い打ちをかけるように、ヤクザの末端に店を乗っ取られてしまい、一獲千金の逆転劇と引き換えに大麻クッキーの製造を押し付けられることになる。そんな限界状況の中で、小泉さんの心理的リアクタンス(他人から行動を制限されると、反発して自分のやりたい欲求が高まる心理現象)は爆発し、アレが発生する。そう、「ツァイガルニク効果」だ! ツァイガルニク効果とは、簡単にいうと「最後までやり遂げたい」という気持ちになること。
小泉さんは「犯罪に加担したくない」という気持ちを抱えながら「それでも美味しいモノを作るのは楽しい」という、自身がパン職人を目指すきっかけとなった原点の気持ちに向かい合い、すべての困難を乗り越えて最高の大麻クッキーを作り込む覚悟を決めて製作に邁進。試食時に「大麻クッキー食うヤツはキマれば何だっていいんだよ」というチンピラに対して「私にしか作れないクッキーじゃなきゃいけない」と反論する高潔な精神性をも獲得する。
人はどんな環境でも対応し、高みを目指せる。小泉さんは好きでもない大麻クッキー作りで犯罪に加担することになった最悪の状況で、己の「好き」と「才能」を開花させたのだ! あなたは、「こんなはずじゃなかった」と思う環境の中で、ここまで自分の仕事に誇りを持てますか?
『蜜を追う』
肥谷圭介(漫画) 瀬戸晴海(監修)
1巻/新潮社
この世で最も甘く危険な蜜、麻薬。増加する麻薬犯罪を取り締まるため、厚生労働省麻薬取締官(通称マトリ)の鷹取と草加は今日も奔走する!
特殊出版レーベル・おおかみ書房代表。プロの漫画家が商業誌に掲載したが単行本化されなかった未収録作品の書籍化や書評、原画展企画、イベント司会など。