2024.09.21

【菅田将暉インタビュー】「お芝居は修業のようなもの。エンジンをでかくしておかないと持たない」【映画『Cloud クラウド』】

俳優として日本映画を牽引し、アーティストとしても圧倒的な支持を受ける菅田将暉さん。巨匠・黒沢清監督と初めてタッグを組んだことでも注目の映画『Cloud クラウド』の話題を皮切りに、お芝居のこと、熱中していること、さらには未来の展望について語ってもらった。

自分の好きなエンタメとしてど真ん中

菅田将暉

――主演を務めた『Cloud クラウド』は、第81回ベネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティションに選ばれ、第97回米国アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品に決定するなど、各方面から大きな注目を集めています。あらためてどういった作品なのか教えてください。

菅田 試写で観たとき、これまで自分が出演した作品の中でいちばん笑いました。もちろん怖さとかもありますし、お客さんがどう捉えるのかはまた別の問題ですけど、自分の好きなエンタメとしてど真ん中に近かったです。

――具体的にどういったところが?

菅田 銃を使ったアクションがあるのですが、そういった場面でリアリティを追求していくと、どこか野暮ったく見えてしまう場合もあります。でも、黒沢組はリアリティがありながらもスタイリッシュで、しかもそのスタイリッシュさがだんだんとユーモラスに見えてくる怖さみたいなものもある。そこが自分の好みというか、面白いところだなって。

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――︎黒沢監督とはどういうやりとりがありましたか?

菅田 常に雑談を交えてお話はしていました。ただ、具体的にこうしてほしいという指示はほとんどなくて、本当に淡々と進んでいく感じでした。僕自身は、とにかく緊張感を失わないように心がけていました。作品中で周りは得体の知れないふざけた連中ですけど、主人公の吉井がヘラヘラしてしまうと、一気にコントになっちゃうと思うんです。お客さんも基本的に吉井目線で物語を見ていくと思うので、そうなると必然的に吉井のリアクションに影響を受けることになります。だからこそ、緊張感を保つことが大事だし、そこは意識してやっていました。

――︎何か気づきや学びといったものはありましたか?

菅田 黒沢さんは、感情での演出をしないんです。「こういう気持ちだと思うので、こう動いてください」がなくて、動きだけをつけてくれる。これがどういうことかというと、自分の気持ちでお芝居をつくっていくと、自分の引き出し、あるいは自分の想像の範囲内でしかアクションができないわけです。でも黒沢さんは、「ここにいて」とか「このタイミングで、ここからこう動いて」というふうに動きを先につけることによって、結果的にこれまでとは違う新しいお芝居になるんです。そのことを体感したとき、いかに自分の想像力が独りよがりだったかを知りました。例えば、運送業者に荷物を引き取ってもらう場面で、僕は家の前でずっと立っているんですね。画面上で見るとそんなに違和感はないのですが、実際は「その距離にそんな棒立ちでいる?」みたいな、ちょっとヘンな立ち方なんです。あれがもし自分がいやすいようにやるともっと違う動きになって、おそらく動き過ぎちゃうと思うんですよね。そのあたりがやっぱり黒沢組の面白いところであり、自分が好きな作品の特徴なのかなと思います。

お芝居と生活を両立するために体を鍛える

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――︎お芝居するということは、菅田さんにとってどんなものになっていますか?

菅田 ずっとお芝居はどこか修業のようなものという感覚があります。不思議なんですけど、役って選んでいるのか、選ばれているのか、よくわからない巡り合わせだったりするんです。それこそ教育に興味を持っているときに先生役のオファーが来たり、ということがある。今回もそんな感じがあって、何者でもなかった男が生死を争う事態に巻き込まれ、そこで生き抜くためにどういう行動をするのか。もちろんお芝居ではあるんですけど、現実とは異なる別の人生を追体験することで、何かやっぱり身になっていくんですよね。

――︎こういう作品をやってみたいというのはあるんですか?

菅田 この『Cloud クラウド』がそうですが、サスペンス・スリラーはずっとやりたいと思っていました。世界的にもわりとスリラー系がトレンドというか、アリ・アスター以降、スリラーがすごくヒットしていますよね。あと、今は配信のドラマがたくさんあって、海外との合作みたいなものもありますけど、僕自身はまだがっつりやったことがないのでチャンスがあれば参加してみたいなって思っています。めっちゃ体を鍛えて、すごいCGを使った大作とかやりたいです。

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――︎「めっちゃ体を鍛えて」と言いましたけど、ちょっと体が大きくなりました?

菅田 そうなんです。役づくりで鍛えていて。20代だと体を鍛えなくても何とかなっていたんですけど、30代になるとそうは言ってられないですね。

――︎本当ですか!?

菅田 全然違いますよ。もともと体が硬いので、勢いだけでやっていた部分があるんですけど、そろそろダメですね。真面目な話で言うと、お芝居だけだったらたぶん大丈夫なんです。お芝居と生活を両立するためには、やっぱり体を鍛えておかないと。エンジンをでかくしておかないと持たないぞって。

――︎では、今、熱中していることは何ですか?

菅田 柔軟です(笑)。家でもずっとやっています。トレーナーさん曰く、細胞をつくるのも、髪の毛をつくるのも、痩せるのも、太るのも、すべては代謝というものが関わっていて、筋肉量が増えると単純に代謝が上がるので、できることは増えますよと。トレーニングするようになって、今まで自分の体にいかに血が巡ってなかったかを思い知らされています。海外だと、当たり前のようにみんなジムに行くじゃないですか。アメリカの場合、いちばんジムが込む時間帯は朝の5時とか6時らしいですよ。仕事の前にジムに行くんですよね。さすがにそんな時間には動けないですけど(笑)。

映画づくりの環境を変えていきたい

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――︎俳優活動に加えて、音楽活動も積極的に展開しています。菅田さんにとって音楽はどういうポジションになっているのでしょうか?

菅田 音楽は、もともとは表舞台において何か息抜きできる場所が欲しかったというのが起源ではあるんです。ほかの仕事はやっぱり自分だけでつくるものではないから、そういう点でも音楽はパーソナルなところに近いし、ライフワークのようなものとしてやっていきたいなと思っています。

――︎音楽とお芝居では使う回路は違ったりするのですか?

菅田 やっぱり同じ人間なので、まったく違う回路ということはないと思います。例えば、音楽の場合、「この歌詞を書いたときはこうだった」みたいに、曲を聴くと浮かんでくる景色というか、自分だけがわかる日記のようなところがあるんですけど、それはお芝居でもあります。過去の自分のお芝居を見て、「あ、そうか、このときこんなことがあったもんな」と思い出す感じってあるんですよね。どちらも自分を通して出ているものである以上、きっと同じ部分が動いているんだろうなと思います。

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――︎未来の自分の姿というのをイメージしたりしますか?

菅田 ざっくり何となくは想像します。そんなに変わってはいないと思いますけど。

――︎新しく挑戦してみたいことは何かあるのですか?

菅田 アメリカにA24という映画スタジオがあって、初期の頃はインディーズ系の作品が多かったのですが、今やアカデミー賞受賞作や世界的なヒット作品を次々と送り出し、ハリウッドで最も注目を集めるスタジオとなっています。そういうムーブを日本でもやれたらいいですし、映画づくりの環境として、フランスのCNC(国立映画映像センター)や、韓国のKOFIC(韓国映画振興委員会)みたいな支援機関を日本でもつくれたらいいですよね。資金援助はもちろん、託児所を現場につくるとか、温かい食事を提供できるようにするとか、いろいろなものが変わっている時代なので、このあたりは真っ先に実現していくべきだなとは思います。

――︎映画を撮ってみたいという気持ちはありますか?

菅田 気持ちとしてはあります。何度かショートフィルムやMVを撮ったことがあるんですけど、俳優は撮ると面白いんです。画の中で見るとやっぱりすごく魅力的だし。一度、仲野太賀を主演にしてMVを撮ったとき、せりふを与えず、動きもそんなにつけないでやったことがあったんです。せりふを奪った状況でどれだけ持つんだろうと思って見ていたら、結局5分のMVが50分になりました。意外とずっと見ていられるんですよね。これは自分の中の太賀に対する歪んだ愛なのかわからないですけど(笑)、少なくとも監督が撮りたいと思う理由がちょっとわかる気がしました。

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俳優
菅田将暉

1993年大阪府生まれ。2009年に「仮面ライダーW」で俳優デビュー。13年、『共喰い』で第37回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。17年、『あゝ、荒野』で第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。俳優業のほかに、アーティストとしても活動し、24年7月に3枚目となるオリジナルアルバム「SPIN」をリリース。公開待機作に『サンセット・サンライズ』(25年1月公開)がある。

『Cloud クラウド』

『Cloud クラウド』

©2024「Cloud」製作委員会
配給:東京テアトル 日活

9月27日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

監督・脚本:黒沢 清
出演:菅田将暉、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝 ほか

世間から忌み嫌われる“転売ヤー”として真面目に働く吉井(菅田将暉)。彼が知らず知らずのうちにバラまいた憎悪の粒はネット社会の闇を吸って成長し、どす黒い“集団狂気”へとエスカレートしてゆく。誹謗中傷、フェイクニュース……悪意のスパイラルによって拡がった憎悪は、実体をもった不特定多数の集団へと姿を変え、暴走を始める。やがて彼らが始めた“狩りゲーム”の標的となった吉井の「日常」は、急速に破壊されていく。

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