2024.08.20
最終更新日:2024.08.20

【佐久間宣行インタビュー】男子、40歳からのごきげんの作り方【『ごきげんになる技術』刊行】

テレビプロデューサー&ディレクターの佐久間宣行さんの二年ぶりの新刊が、『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』。発売前に重版が決定した話題の著書には、普段からSPURでの連載「佐久間Pの甘口人生相談『え、それ俺に聞く!?』」や後輩の相談を受けまくる”歩くお悩み相談室”でもある佐久間さんならではの、メンタルをすり減らさずに、自分らしい仕事や生き方をするための”佐久間式ライフハック”がたっぷり綴られている。
UOMOでは「男子、40歳からのごきげんの作り方」について話を聞いた。

佐久間宣行

佐久間さん、UOMO世代の【男子、40歳】はどういう時期だと思いますか?

 40代は家庭では家事に加え、子育てが加わる人もいて、一方で世の中に対して自分という存在を証明しないといけない時期。正直、しんどいですよね。気づかないうちにバランスを崩している人が多い印象です。
 特に30、40代の男性は、競争に晒され続ける環境がいまだに残っているからこそ、組織の人間関係という呪いに巻き込まれがち。囚われ続けた結果、本当の自分を見失う人も少なくない。
 それに加えて職場での評価が明確に現れる時期でもある。他者評価は高めなのに自己評価が低すぎる人は無理しすぎたり、場合によってはメンタルを壊すケースもある。逆に自己評価だけが高い人は、怪しい投資などズルいことに手を出しがち。実際にそういう人を何人か見てきました。

バランスの取り方や自分の操縦法を誤ると、どうなるのですか?

 認められない報われないことに対するストレスが、組織や社会に向かいがち。例えば、SNSの「X」では匿名で他人を攻撃したり、飲み会で愚痴を言い続けたりして、知らぬ間に“人をけなすバケモノ”になってしまう人も。そういうおじさんにならないためにも、自分を客観視しながら、組織や派閥の呪いを解いたり、心のバランスを整える必要があると思います。

佐久間宣行 2

それは避けたいですね。回避策はあるのでしょうか?

 仕事上のテクニックの面で言うと、レッドオーシャンに行き詰まらないようにすること。自分の強みである武器は通用するのか? 錆びていないか? 今いる職場は武器が必要とされている場所か? を常に確認することは大切。よほどの天才じゃない限り、自分の武器を理解して磨き、強みを増やしていく作業を積まないと、さらに年齢を重ねたときに勝負できない人間になってしまう。

 僕に関して言えば、30代の頃からずっと、コツコツ準備したり、しっかり考えていただけで、特別な才能はないんです。
 もしもゴールデンタイムの番組で高い世帯視聴率を目指す渦中にいたら、この業界が肌に合わなくて、とっくに辞めていたと思います。資質としても性格的にも王道よりもマニアックなものが好き。”じゃない方”である自分に合わない花形の仕事に携わることを早い段階で諦める代わりに、5、10年後にブルーオーシャンになるかもしれない場所を予見。とことん内省して自分の強みを模索したり、磨く時間を作っていました。
 そのひとつが、いつかきっと役に立つと信じたエンタメやカルチャーを、ジャンルを問わず触れ、浴びまくること。もともと好きなことではあるけれど、継続したという点では努力です。それが50歳近くなった今も、アイデアや引き出しが多いと思ってもらえる所以だと思います。

 これはクリエイティブ職以外の、仕事内容がルーティン化していると思い込んでいる人にとっても同じことが言えます。たとえ職場は同じでも、年齢は重ねているのだから、フェーズは少しずつでも変わるもの。その都度、知見や人間関係含めてアセスメントする必要はあると思います。

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じつは武器を増やし、磨く時期でもあるのですね。

 そう思うのは、僕が20、30代前半の頃、華やかな飲み会や接待などに重心を置き、手持ちの武器を磨くことを後回しにした人。武器を強固だと見誤った結果、努力しなくなった人をたくさん見てきたからかもしれません。現状にあぐらをかいたままの人は、いざ打席に立った時、武器が使い物にならなくて焦ったり、不発に終わっていたんです。

 あとは、UOMO世代ともなると、賃金や人事などのことで我慢できない局面が、人生において一度や二度、訪れるもの。組織の人間関係や社外の人との付き合い、家庭のことにパーセンテージを占められるのも十分にわかりますが、決定的に我慢できないことがあった時に「じゃあ、辞めます」と言える強み(本業の仕事以外の副業や投資を含む)を持っているかどうかで、組織との喧嘩の仕方が変わるというか。

 どういうことかと言うと、例えば僕が制作を担うある番組でどうしても許せないことがあり、プロジェクトを降りたくなったとします。僕はその番組以外でも生き延びる術をいくつか持っているからこそ、抜けたいと伝える勇気が持てるし、組織とフラットな交渉もできる。声を荒げて威嚇したり、余計な拳を振り上げなくて済むんです。
 その時に険悪になって辞めるか、(相手の条件を飲んで)ぐっと我慢するか、うまく交渉するかで、その後のキャリアや人生も大きく変わると思うんですよね。

一方で上司や部下と良好な関係も築く必要も。佐久間さんなりの心得を教えていただけますか?

 「きっとわかりあえるはず」と思って接すると、減点法になっていくだけ。世代が違う、立場も違う人たちだからこそ、わかりあえないという前提のもと、仕事仲間なんだとよい意味で割り切り、認め合えるところを見つけるようにしています。
 特に今の時代、最初からウェットな人間関係を求めるのは逆効果だし、自分自身も疲弊してしまう。まずはドライな状態でも成立する人間関係を築くこと。達成や成功を経て、関係性が徐々にウェットになっていくのはアリだと思います。

 あとは、いつもごきげんでいることでしょうか。40歳にもなると、「この人のためにがんばりたい」という気持ちを持ってもらえるかどうかも大切。周りを見回しても、少なくともごきげんに見える人は、他人に嫌な印象を与えないから人間関係がスムーズだし、部下や上司からの信頼を勝ち取っている人が多いですね。

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“ごきげん=いつもニコニコ愛嬌がある”印象がありますが、著書では「メンタルが安定していてブレない軸があること」と定義されています。

 職場に機嫌を持ち込んでしまう人って案外多いと思うんですが、僕は仕事場に機嫌を持ち込まないと決めていて。道徳的なことを説きたいわけではなく、結果的に仕事の効率が悪くなるからです。
 だって上司やリーダーが情緒不安定だと、機嫌を伺うところからスタートするから、本来は業務に注力すべきなのに、そこに神経やエネルギーを費やすことになる。コミュニケーション自体が億劫になるから、報連相が滞り、結果的にチームの士気も業績も下がりがちに。
 一方で上司やリーダーは、だんだん耳障りのいいことしか言われなくなり、自分の言動やセンスが正解なんだと思い込んだ結果、「裸の王様」みたいになってしまう。過去にそうやって時代や社会とズレていった人を見てきたからこそ、僕が組織やチームのリーダーになった時は、「それ、違くないですか!?」「ズレてますよ」と言われる人、(意見に納得できたら)素直に認めて修正できる人間になろうと思ったんですよね。

 もちろん僕自身、何事にも動じない鋼のメンタルを持っているわけでもなければ、腹が立つことがないわけでもないですよ。ネガティブな感情が発動したなと思ったら、野良猫のようにふらっといなくなり、映画やサウナ、一人メシなど、半ば強制的に一人になる時間を作る。すると、気持ちがスンと整ってごきげんに。改めて周りの人に気を使えたり、やさしくなれるんです。
 あと、「さすがにひどいな」と思うことをされたら、笑い話やネタとして他人に面白く話せるくらいになるまで、その人と会うのを控えたりもしていますね。

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【40歳、男子】は、大きな挑戦やギアチェンジがしにくいし、日頃のくさくさした感情の逃し方がわからず、ぐっと耐えている人も。

 職場で我慢、家庭も我慢が多いとなると、どこかでほころびが出たり、破綻が生じがち。仕事に対する比重が高い人なら、そこでの時間を改革していく方法を見つけたほうがいいし、どこにもなくて窮屈に感じているなら自分を少しでも解放したり、息抜きする場所を見つけて欲しいですよね。

 なぜこれを伝えるかと言うと、生活の80%以上に我慢がつきまとう人は、なぜか被害者意識が強くなる傾向がある。すると勝手に加害者を作り出して、そのうち他者や社会の悪口を言ったり、立場の弱い人に強く出てしまったり。

 人は幸せになるために生きているはずなのに、無意識のうちに自分を被害者だと思って生きる人生は辛いし、(人が寄り付かなくなるから)寂しい人生を送ることにもなりかねないんです。じいさんになってふと時間が空いた時、「メシ行こうぜ」とか「呑みに行く?」と気軽に誘える友人は、何人かいたほうがいいじゃないですか(笑)。

佐久間宣行 6

ですね。最後に、佐久間さんとも世代が近い【40歳男子】に向けてメッセージがあれば教えてください。

 40代は、これまで働いてきた結果が出る頃。人生設計通りにキャリアが築けた人がいる一方で、そうじゃない人もいる。むしろ後者のほうがほとんどだと思います。競争に晒され続けて生きてきた世代は特に、それを“敗者”だと思う人がいるかもしれません。キャリアの後半に足を踏み入れる年代になり、「自分はこんなはずじゃない」「本当はもっとやれるのに」というくすぶった思いがある場合は、改めて自分自身の見直しをしてもいい頃なのかも。

 いくつになっても高い目標や理想を設定するのは大切なこと。だけど同時に、今の自分の立場や状況、気持ちにしっかり目を向けることも同じくらい必要だと、僕は思いますね。なるべく社会や他人の評価に振り回されない、過去の自分の価値観にもしがみつかない、今のあなたがどんな時や環境なら楽しくてニュートラルでいられるか? 心の声に耳を傾け、ごきげんでいられる選択を重ねながら、人生のアセスメント作業をしてもいい年頃かもしれません。

 閉塞感があってなんだか生きづらい世の中だし、仕事も家庭も忙しい時。だからこそお互い、自分を労わりながら生きていきましょう。『ごきげんになる技術』には、あるあるな悩み相談から、ネガティブな感情の飼い慣らし方、UOMO世代の仕事の向き合い方や人間関係の築き方まで、ごきげんに生きるために僕がこれまで大事にしてきた心得や実践してきた作法を紹介しています。さまざまな立場の人に役立つ一冊ですので、「これはできるかも」と思うものから試してもらえたらうれしいです。

『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』 

『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』

佐久間宣行著
¥1,540/集英社刊
発売中

日本のエンタメ界を牽引する著者・佐久間宣行自身も実は、元来のネガティブ思考、自分の弱さに悩み、不安を抱えながら生きてきた。だからこそ磨きあげられた、自分をすり減らさずに生きるための「自分自身をごきげんにする技術」を、余すことなく公開。

NOBUYUKI SAKUMA
佐久間宣行

テレビプロデューサー、ディレクター、演出家、ラジオパーソナリティ、作家。 『ゴッドタン』『ピラメキーノ』『トークサバイバー!1・2』『インシデンツ1・2』『LIGHTHOUSE』などのテレビ番組、配信作品を手がける。2019年から「オールナイトニッポン 0(ZERO)」の最年長パーソナリティ、 「伊集院光&佐久間宣行の勝手に『テレ東批評』」などのMCとしても活躍。企画・出演・プロデュースを手がけるYouTube チャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』は登録者数215万人を突破(2024年8月現在)。サブチャンネル『BSノブロック~新橋ヘロヘロ団~』も大好評配信中。9月3日には35人の豪華キャストが出演するトークサバイバル番組『トークサバイバー!ラスト・オブ・ラフ』がNetflexで配信スタート。

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