漫画家の大橋裕之さんが監督を務めた初めての劇場公開映画『変哲の竜』。映画という表現手法でも不変を貫く、大橋作品特有の空気感に迫る。
1980年愛知県蒲郡市生まれ。2005年から自費出版で活動を開始。代表作に、映画化もされた『音楽』や『ゾッキ』、その他『シティライツ』『夏の手』『太郎は水になりたかった』など。監督を務めた短編映画『変哲の竜』が「MIRRORLIAR FILMS Season5」の一編として公開中。UOMOのウェブサイトでは漫画の新連載を準備中!
漫画と同じく、映画でも“間”を取り入れたかった
『音楽』や『ゾッキ』『シティライツ』などの漫画で知られる大橋裕之さん。どこか物悲しい日常の風景を、シュールなおかしさとともに描いてきた漫画家だ。そんな大橋さんがこのたび、映画監督として短編映画を製作した。
「『ゾッキ』を映画化してくれたプロデューサーから、『大橋さんも映画を撮ってみませんか?』と言ってもらえて。漫画用に置いていたネタの一つを映画に採用しました。主人公は又吉(直樹)くんがいいなと思って。ちょっと寂しさがあって、演技が強くなりすぎない感じが合ってると思ったんです」
大橋作品のファンを公言する又吉が主演を務めた映画『変哲の竜』は、主人公の竜が、公園で懐かしいにおいを嗅ぐ場面から始まる。それが小学生時代の友人の部屋のにおいだとひらめいた竜は、20年ぶりにその家を訪れる…。不思議な導入だが、長回しが多いのにテンポがよく大橋作品の色が出ている。
「漫画でも映画でも“間”があるほうが好きですね。『次のカットに移るまでに、あと2秒、間が欲しい』と編集で調整してもらったシーンもあります。撮影後に山下敦弘監督や今泉力哉監督に意見を求めて、間をつくる技法について学びました」
一人で描く漫画とは違い、映画製作は監督の指揮のもと、キャスト・スタッフが連携してつくられる。慣れない作業に苦悩する場面もあった。
「本番中、自分は台本ではなく芝居を見るのに集中しているけど、セリフは合ってんのかなとかいちいち心配になって。俳優さんが芝居の途中で嚙んだことがあったんですけど、すかさず『カット』って差し込むのもなんだか偉そうだと思って言えなかったんです。自分で映画を撮るより、原作を映画化してもらうほうが楽なんですね…(笑)」