2025.03.24
最終更新日:2025.03.25

【河合優実インタビュー】映画『悪い夏』|予想もしてなかったことをやってみたい

豊かな表現と圧倒的な輝きをあわせ持ち、映画やドラマなど、話題作への出演が続く河合優実さん。最新出演作『悪い夏』のエピソードを皮切りに、演技との向き合い方や演じることの魅力、さらには未来の展望などについてインタビュー。

取りこぼさないようにしようと思って演じた

河合優実

――映画『悪い夏』は、北村匠海さん演じる主人公の公務員・佐々木が思いがけない出会いをきっかけに、犯罪計画に巻き込まれ、破滅へと転落していく姿を描いた作品です。河合さんは本作で育児放棄寸前のシングルマザー・愛美を演じていますが、オファーを受けてから、どのように役に向かっていったのですか?

河合 お話をいただいて、まず脚本を読み始めたのですが、最初のうちは今ある社会の問題を提起して何かしらの結論を描いていく物語なのかと思っていたら、全然違うほうに転がっていって、あんな展開になるんだということにびっくりしました。社会派だと思っていたら超エンタメだった、みたいな感じで、そこから愛美という役を考えていったんですけど、エンタメ作品である以上、観ていてドキドキできるような面白い映画にすることがいちばんいいんだろうなとは思いつつ、やっぱりその裏にある背景というか、愛美の今の状況や環境といったものを取りこぼさないようにしようと思って演じました。

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――愛美は色仕掛けで佐々木を犯罪へと巻き込んでいく役柄です。誕生日のお祝いで愛美がケーキをもらったとき、戸惑いとかうれしさとかいろいろな感情が絡み合って見せた表情がとても魅力的でした。河合さん自身、印象に残っている場面はありますか?

河合 私もそのシーンは好きです。愛美から佐々木に向いているものって、助けてほしいということなのか、都合よく利用しようとしているだけなのか、はっきりと好意なのか、よくわからないんです。寄る辺ないものがずっと揺れているみたいな感じで、表には出さないけど、いつもウジウジしたものを抱えているというか。あのとき愛美はケーキをもらったことをすごくうれしいと思ってしまった。でも、今からこの人のことを裏切ろうとしている。そういう揺らぎがあの場面でいちばん表れていたと思います。

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――キャストやスタッフとのやり取りで何か思い出に残っている出来事はありますか?

河合 愛美のメイクとか服って、佐々木と出会ったことで、だんだんと変わっていくんです。かつては鎧みたいにまとっていたものが次第にほぐれていくというか、派手なメイクを落として、ちょっと素に近くなっていくんですけど、鏡の前でメイクをしてもらっていたら、娘の美空役の佐藤恋和ちゃんが横に来て、「さっきよりお化粧しないの?」と聞いてきたんです。よく気づいたなと思って、「そうだよ」と答えたら、「なんでお化粧をしなくなるの?」と聞かれて。これはちゃんと答えなきゃいけないと思ったので、「お化粧をするって本当の自分を隠して強く見せたり、もっとキレイに見せたりするものでしょ。それを佐々木くんの前ではしなくていいと思ったんじゃないかな」みたいなことを、すごく言葉を選びながら話しました。ふと気になったことかもしれないけど、彼女がこれからお芝居をしていったり、何か役というものについて考えていったりするうえで、そこに興味を向けたのはすごい才能だと思うんです。そのことに対してちゃんと答えようという気持ちになったのと、聞いてくれたことに感動したのを覚えています。

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具体的なイメージはないけれど、漠然とした野望だけはある

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――今、お芝居するということは河合さんにとってどんなものになっていますか?

河合 お芝居をすることは楽しいし、ずっと好きです。でも、始めたときと明らかに認識が変わったことがあって、それはお芝居をすることのもうひとつ外側に大事なものがあるということ。以前まではお芝居が楽しいという気持ちだけで、自分たちがお芝居を通して物語や作品を届けているということにあまり自覚的ではありませんでした。今は「私たちはなぜこの物語をみんなに見せようとしているんだろう」という部分を考えることが大事だと思うし、作品づくりの本質なんだと思っています。何某かの人物を演じて、それを世に放つことって、実はとても責任があることだと思うんですよね。だから、どんな作品であっても、絶対に無責任に参加しないようにしようと思っています。自分ひとりの力は小さいかもしれませんが、その作品を届ける一端を担っているんだということに常に自覚的でありたいです。


――今後の展望や自分の未来の姿はどこまでイメージしていますか?

河合 全然イメージしてないんですよね。だからといって、いつ辞めてもいいと思っているとかではなく、ずっとやりたいと思っているし、今のままでいいとも思っていないし、もっともっと知らないものを見てみたいです。自分も周りのみんなも予想してなかったことをやってみたいという漠然とした野望だけはあります(笑)。


――それこそ同年代の友だちや仲間とそういった話はしないのですか?

河合 怖くて話せないんですよ。自分はいいけど、相手が将来についてどう考えているかを知って、もし仮にそれが叶わなかったら……ということを想像してしまうのか、いつも自分からは踏み込めないんです。私自身があまりにも先が見えていないから、余計にそう思っちゃうのかもしれません。

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――焦りみたいなものはあるんですか?

河合 浮き沈みはありますけど、回復が早いタイプだと思うので、すごくイヤだと思うことがあっても、寝たらたいてい忘れちゃいます(笑)。ただ、今回の『悪い夏』では子どもがいる役でしたし、『ナミビアの砂漠』でも妊娠の話が出てきました。お仕事でそういうことに触れる機会もだんだん増えていくでしょうし、女性の体で生まれた以上、考えざるを得ない漠然とした不安みたいなことは意識する年齢にはなってきたかもしれないです。具体的な未来のビジョンはないまま、ずっと希望とも不安ともつかない何かがあるみたいな感じはありますね。


――では、普段は何をしているときが楽しいですか?

河合 たまに飲みに行ったりとかして、あんまり会えていなかった友だちと会って話をしているときが楽しいですね。


――そういうときってどういう話をするんですか?

河合 何の話をしているんだろう。このあいだ興味深かったのは、自分は間違いを犯さないという自信がある人と、自分はいつか間違い犯すんじゃないかという不安がある人がいて、それは浮気をするか、しないかみたいな話から始まったんですけど、そこから闇バイトみたいな話にもなって。「自分の人生って何が起こるか全然わからないじゃん」という人だったり、「そんなのは意志の問題だから、やらないと思ったことはやらない」という人だったり、全然答えが出ないことをずっと夜中まで話していました(笑)。

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シャツ¥41,800・ジャンプスーツ¥81,400/オーラリー
河合優実

2000年生まれ、東京都出身。21年に出演した『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』での演技が高く評価され、各賞の新人賞などを受賞。23年、『少女は卒業しない』で映画初主演。24年、主演作『ナミビアの砂漠』が第77回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞、同作及び『あんのこと』で第67回ブルーリボン賞、第98回キネマ旬報ベスト・テンなどの主演女優賞を受賞。近年では『ルックバック』(劇場アニメ・24)、『敵』(25)など話題作への出演が続いている。待機作には『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(4月25日公開)、『ルノワール』(6月20日公開)がある。

映画『悪い夏』

映画『悪い夏』

2025年3月20日(木・祝)全国公開

市役所の生活福祉課に務める佐々木(北村匠海)は、ある日「同僚が生活保護受給者のシングルマザーに肉体関係を迫っているらしい」という相談を受け、真相を確かめようと彼女(河合優実)のもとを尋ねる。その出会いが“地獄”の始まりだとも知らず――。破滅への転落と“今そこにある”恐怖を描くサスペンス・エンターテインメント!

出演:北村匠海、河合優実、窪田正孝、竹原ピストル、木南晴夏、伊藤万理華、毎熊克哉、箭内夢菜
監督:城定秀夫
脚本:向井康介
原作:染井為人『悪い夏』(角川文庫/KADOKAWA刊)
配給:クロックワークス
©2025映画「悪い夏」製作委員会

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