『愛がなんだ』や『窓辺にて』などの作品で“恋するもの”のこじらせやピュアな心情を描き続けてきた映画監督の今泉力哉さん。新作映画で大事にしたこととは。
1981年福島県生まれ。2010年『たまの映画』で商業監督デビュー。’19年『愛がなんだ』が話題に。そのほかの作品に『his』『あの頃。』『街の上で』『かそけきサンカヨウ』『窓辺にて』『ちひろさん』『アンダーカレント』など。実写化を手がけた『からかい上手の高木さん』は、ドラマ版がTBS系列で4月から放送、およびNetflixで配信中。劇場版が5月31日に公開。
俳優の感情がふいにこぼれる
瞬間に立ち会えるのが喜び
今泉力哉監督の新作映画『からかい上手の高木さん』は、シリーズ累計1200万部を突破する大人気コミックが原作だ。とある中学を舞台に、隣の席同士である「高木さん」と「西片」の交流を描いたストーリー。高木さんは西片への恋心を隠しながら、西片に対して愛ゆえの“からかい”を仕掛ける。
「原作モノの実写化のオファーをもらうときは、いつも『自分が撮るべきかどうか』を真剣に考えます。例えばもし王道のキラキラ恋愛マンガが原作なら、もっとほかにうまく撮れる人がいると思うので。でも今回の原作を読んでみたら、日常のささいなやりとりの中での心情の変化や、思いを伝える/伝えないみたいな細かい逡巡が描かれていて、自分がオリジナル脚本で撮ってきた映画の空気と近しいものを感じてお引き受けしました。相手を大切に思っているからこそ簡単に好きって言えず、代わりにからかいが生まれる。その不器用さや迷いに惹かれた部分はありますね」
今泉監督は今春のドラマ版で中学生時代を描いたのち、続く劇場版では原作にない“高木さんと西片の10年後”をオリジナルで描いた。
「10年後を描くうえで決めていたのは、その時間経過の間に高木さんと西片がほかの人と恋愛していた、みたいな描写は絶対に入れないでおこうということでした。当て馬を出すと物語は進めやすいけど、彼らの純粋な関係を描くにはふさわしくないなと。あと、大人になると色気みたいなものが出てしまうけど、それよりは変わらず天真爛漫さを重視したいと思って。その二つを目指すとファンタジーになりかねないけど、演じた永野芽郁さんと高橋文哉さんはハマり役でしたね。永野さんはあるシーンで、脚本にはないのに西片のある行動に反応して涙してしまう瞬間があって。作劇上NGカットにはなってしまったけど、役者さんの感情がふいにこぼれ落ちる瞬間に立ち会えるのは、映画を撮る喜びの一つです。そうした俳優たちの純粋さにも救われている撮影現場だったと思います」