2024.04.16

マヒトゥ・ザ・ピーポー|いなくなってしまった人々と、また逢うための物語

トレードマークの赤い衣服に身を包んだミュージシャン、マヒトゥ・ザ・ピーポーさん。初監督・脚本作品となる映画『i ai(アイアイ)』の製作背景や新たな表現について語る。

マヒトゥ・ザ・ピーポーさん
映画監督、ミュージシャン
マヒトゥ・ザ・ピーポー

2009年にバンド「GEZAN」を大阪にて結成。作詞作曲を担当し、ボーカルとして音楽活動開始。歌を軸にしたソロ活動や、青葉市子とのユニット「NUUAMM」でもアルバムを発表する。映画の劇伴やCM音楽を手がけるとともに、フリーフェス「全感覚祭」の主催、小説の執筆など多彩に活躍。映画『i ai』では初監督・脚本、音楽を担当した。

いなくなってしまった人々と、また逢うための物語

 純粋さと狂気を併せ持つ独自の音楽性で聴く者に衝撃を与え続けるロックバンド、GEZAN。ボーカルのマヒトゥ・ザ・ピーポーさんは、反戦デモ主催や小説執筆など幅広く活動してきた。彼が新たな表現の場として挑むのは映画。初監督・脚本を務めた『i ai』が3月8日より公開されている。

「コロナ禍でオンラインでのやりとりが増え、人とのかかわり合いの中で生まれる“温度”が単なるデータに置き換わっていくような感覚があったんです。自分が好きだったライブハウスでの光景や、そこに確かに存在したはずのつながりもすべて過去の情報になってしまうんじゃないかって。そんなとき、真実も噓もひっくるめて今の瞬間を記録できる映画という表現に強く惹かれました。製作の大半は、自分の中に押し込めていた感情や言葉に血を通わせる作業。自ら演奏する音楽とは違って、他者に演じてもらうことで、内側にしかなかったイメージを外に向けて手放していくような喜びを覚えました」

 劇中で描かれるのは、人々が音楽を通じて出会う物語。彼らはある出来事をきっかけに別れ、時を経て再会する。

「表現と向き合っていると、自分の前を走る存在が現れるんです。ただ、誰もが世の中に適応できるとは限らなくて。消えていってしまった人たちもたくさんいる。この映画では、彼らが存在した時間を永遠に閉じ込めたいと思いました。『i ai』は“相逢”。映画という虚構の中なら、何度でも彼らに逢うことができるんです。もう一つ重要なのは、“i”、つまり“私”のための作品だということ。映画館に100人の観客がいたとしても、この映画は一人一人の“私”に語りかけている。人の感情は曖昧なものですが、それをきちんと言葉にしてみることは大切。映画を観てどう感じたのか、あなただけの言葉で伝えてほしいです」

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