2024.08.23

【永瀬正敏インタビュー】想像を超えるものが必ず生まれる特別な現場/映画『箱男』

この人こそまさしく“映画俳優”。国際的にも高い評価を得る永瀬正敏さんがこのたび、主演を務めたのは映画『箱男』。困難を極めた公開までの道のりを語った。

永瀬正敏さん
コート¥523,600・シャツ¥63,800・ブーツ¥110,000/Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト プレスルーム)
俳優
永瀬正敏さん

1966年宮崎県生まれ。’83年に相米慎二監督『ションベン・ライダー』で俳優デビュー。『ミステリー・トレイン』『息子』『ピストルオペラ』など国内外の100本以上の作品に出演。また、出演した『あん』『パターソン』『光』では、カンヌ国際映画祭に3年連続で公式選出された初のアジア人俳優となった。最新主演映画『箱男』が8月23日より公開中。

想像を超えるものが必ず生まれる特別な現場

永瀬正敏さん アップ

「デビュー作(『ションベン・ライダー』)から一貫して、自分が出ている映画を僕は客観的に観られないんです。やり直してもあれ以上の芝居はできないと思うんですけどね」

 相米慎二やジム・ジャームッシュなど、偉大な監督たちのもとで数々の役を演じてきた永瀬正敏さん。これまでに100本以上の映画に出演してきた彼だからこそ、自らの芝居を直視できないと語るのは少し意外だ。主演を務めた『箱男』も同様の感覚があるという。

「石井岳龍監督の現場では、俳優が台本を読み込んで100%で芝居しても、それだけでは監督の世界に追いつけない。心の扉の開き方がほかの現場とはちょっと違うんです。浅野(忠信)くんとのバトルシーンでも互いのアドリブに対してリアクションしていて、想像を超えるものが必ず生まれる。出来上がりを見てみないとどう切り取られているかわからないので、毎回楽しみであり緊張感もあります」

『箱男』で永瀬さんが演じたのは、段ボールをすっぽりかぶり、のぞき窓から一方的に世界を観察する謎の男。安部公房が1973年に発表した小説が原作だが、「今の世界を予言したような物語」だと永瀬さんは言う。

「僕たちはいまスマホという小さな箱の中にとらわれていて、そこで得る自由や不自由、恍惚感や恐怖の中で揺れ動いている。その感覚がまさしく箱男に通底していると思います」

 実は1997年に一度製作が進行していた『箱男』。しかしクランクイン前日に不運にも撮影が頓挫し、幻の企画に。それでも諦めなかった石井監督のもと、当時と同じ永瀬さんを主演に迎え、27年越しに日の目を見た。

「ベルリン国際映画祭で初上映を迎えたときに、お客さんの反応があまりにもよくて思わず監督を握ったんですよね。実は手のつもりが太腿を握りしめていたんですけど(笑)。それくらい、積年の思いがあふれ出た瞬間でした」

映画『箱男』

映画『箱男』

©2024 The Box Man Film Partners
2024年8月23日(金)新宿ピカデリーほか全国公開中
配給:ハピネットファントム・スタジオ

【あらすじ】
完全な孤立、完全な孤独を得て、社会の螺旋から外れた「本物」の存在。ダンボールを頭からすっぽりと被り、街中に存在し、一方的に世界を覗き見る『箱男』。カメラマンである“わたし”(永瀬正敏)は、偶然目にした箱男に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、遂に箱男としての一歩を踏み出すことに。しかし、本物の『箱男』になる道は険しく、数々の試練と危険が襲いかかる。存在を乗っ取ろうとするニセ箱男(浅野忠信)、完全犯罪に利用しようと企む軍医(佐藤浩市)、 “わたし”を誘惑する謎の女・葉子(白本彩奈)……。果たして“わたし”は本物の『箱男』になれるのか。そして、犯罪を目論むニセモノたちとの戦いの行方はー!?

【キャスト・スタッフ】
原作:安部公房『箱男』(新潮文庫刊)
監督:石井岳龍
脚本:いながききよたか、石井岳龍
出演:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市

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