2024.10.11

『1122 いいふうふ』|公認不倫の果てに浮かぶ愛の形。現代における夫婦の理想とは?【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。

『1122 いいふうふ』

『1122 いいふうふ』
Ⓒ渡辺ペコ/講談社 Ⓒmurmur Co., Ltd.

公認不倫の果てに浮かぶ愛の形
現代における夫婦の理想とは?

 婚外恋愛許可制、つまりはパートナー公認の不倫を意味する。このドラマでは妻・一子が夫・二也とのセックスを拒否したことを転機として、夫は人妻である美月と妻公認のうえで情事を繰り返すことになる。当然ごく普通の夫婦関係とは言えないものの、当人たちにとってはたとえ性的関係なしでも仲がいい「夫婦」の心地よさを維持するための手段であり、それは常識にとらわれない男女の形、のはずだった。だが妻の心のバランスは次第に崩れ、彼女は女性用風俗で出会った大学生の男と特別な関係に陥っていく。

 一見、センセーショナルな設定が並ぶ物語であり、筆者もまた「公認不倫」という刺激的なワードに興味を惹かれて原作コミックを手に取った記憶がある。しかし結論から言えば、不倫や風俗は登場人物たちが本当の自分の感情や生き方と向き合うためのきっかけにすぎず、本質は表面的な過激さとはむしろ反対の、地味で切実な心理ドラマのほうにあるのだ。

 映像化にあたって監督を務めた今泉力哉は、映画『愛がなんだ』(’19)、『窓辺にて』(’22)をはじめとしてリアルな恋愛模様を描き続けてきた才人である。本作はまさにうってつけの素材であり、誰にでも起こり得る悩みに苦しむ大人たちの、それゆえの愛おしさ、哀しさ、滑稽さを何気ない会話を通して表現する彼の手腕は今回も存分に発揮されている。

 夫との距離感や自身の性に迷う一子、妻への愛情と浮気相手との間で揺れる二也、家庭に冷淡な夫と無力な自分に憤る美月、感情をうまく表せない美月の夫・志朗。4人ともが不倫事件を機に、目をそらしてきた問題とむき出しになった自分自身の顔を直視せざるを得なくなる。食卓で寝室であるいはラブホテルの一室で、見せ場は常に男と女が二人だけで交わす静かだが熱気を帯びた対話だ。そこで繰り広げられるディスカッションからは、好きな人と一緒にいたい気持ちだけでは解決できない、結婚という考えてみれば不思議な約束事の難しさが浮かび上がってくる。泣かされ考えさせられる大人のドラマ、ただし夫婦揃っての鑑賞は気まずい可能性もあるのでご注意を!

『1122 いいふうふ』

監督/今泉力哉 脚本/今泉かおり 
出演/高畑充希、岡田将生、西野七瀬、高良健吾、吉野北人

『にこたま』の渡辺ペコによる同名コミックを今泉力哉監督・今泉かおり脚本の夫婦タッグでドラマ化。結婚7年目となる30代夫婦の揺れ動く心情を、本作が初共演となる高畑充希&岡田将生ら豪華出演陣で描く。Prime Video『1122 いいふうふ』全7話独占配信中。

宇都宮秀幸

編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。

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