動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。
『シュリンキング:悩めるセラピスト』

セラピストと周囲の人々が織りなす
心に効能ありのコメディ・ドラマ
精神科医のことを英語のスラングで、「シュリンク」と呼ぶ。頭の中で膨らんでしまった心のトラブルを「シュリンク=縮める」というイメージからきているようだが、本作の主人公であるセラピストのジミーは、自分自身が妻の事故死という哀しみから抜け出せないでいる。残された思春期の娘との関係もギクシャクしているが、ジミーは患者たちと本音で向き合い始め少しずつ変化していく。
セラピストという専門的な職業の人物を主人公にしているもののカウンセリングの場面はメインではなく、巻き起こる笑いの中心となるのは、ジミーの家族、職場の同僚や隣人たちといった、いずれも個性的な面々との揺れ動く人間関係と、繰り広げられる軽快な会話の応酬だ。
カラフルな衣装や背景、飛び交うジョーク、上品な視聴者なら顔をしかめかねない(?)満載の下ネタと、作品のトーンはあくまで明るくライト。一方で興味深いのは、物語の底に人々が内面に抱えるシリアスな問題がさりげなく流れている点だ。愛する妻を失ったジミー自身の苦悩はもちろん、患者となる退役軍人の戦場でのトラウマや、ジミーの師匠的存在であるポールの認知症や老い、隣人の主婦が陥る子育て後の喪失感など、誰もが直面するかもしれないさまざまな悩みが、その回復の過程とともに描かれていく。クスクス笑いながら気軽に観ているうちに、いつしか自分を登場人物の誰かと重ね、しんみりしてしまう。そんな不思議な感覚がやみつきになってくる。
演じるキャストはいずれも芸達者揃いで、中でも光るのはやはり老セラピストのポール役で登場するハリソン・フォードだろう。年齢相応の落ち着いた佇まいを見せつつ、どこかとぼけた変わらぬチャーミングさを発揮して魅了してくれる。正直、近年のどの映画でのフォードより本作での彼のほうがずっといい。
シーズン2を迎え、それぞれ成長し関係性も変わった人物たちによってストーリーは深みを増していく。笑って泣ける良質のコメディであると同時に、まるでドラマを観ること自体が一種のセラピーのような気がしてくる、そんな作品だ。
『シュリンキング:悩めるセラピスト』
監督/ジェームズ・ポンソルトほか
出演/ジェイソン・シーゲル、ハリソン・フォード
妻を亡くしたセラピストが型破りな手法によって、患者や自分自身を救おうとするコメディ・ドラマ。『インディ・ジョーンズ』シリーズの大物俳優ハリソン・フォードが助演を務める。Apple TV +『シュリンキング:悩めるセラピスト』シーズン1〜2全22話配信中。
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。