2024.05.19

『マスターズ・オブ・ザ・エアー』|爆撃機の地獄絵図を体感するB-17が主役の戦争ドラマ大作【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。

「マスターズ・オブ・ザ・エアー」

「マスターズ・オブ・ザ・エアー」
画像提供 Apple TV+

爆撃機の地獄絵図を体感する
B–17が主役の戦争ドラマ大作

 大ヒット作『トップガン』をはじめとして、華麗な空中戦を展開する戦闘機を題材とした映像作品は数多い。対して、上空からの敵地への空爆を主な使命とする「爆撃機」を扱った映画やドラマは、その地味さゆえか、さほど思い浮かばない。第二次世界大戦末期の欧州戦線を舞台に、イギリスの米軍基地からナチス・ドイツへの爆撃作戦を行った実在の空軍兵士たちを描く本作。まず、さまざまな背景をもった若き兵士らを追う群像劇であることは確かだが、真の主役は彼らが搭乗する大型戦略爆撃機「Bー17」そのものであると言ってもいい。

 強力な爆弾を搭載しつつ、自ら多数の機銃も装備した別名・空飛ぶ要塞とも呼ばれるBー17。一見無敵にも思えるこの機体だが、実際の戦闘がいかに過酷であったかが恐ろしいほどの臨場感をもって執拗に描写される。高度7500メートルの極寒や低酸素に加え、地上からの絶え間ない対空砲火の嵐、迎え撃つ敵戦闘機部隊の猛攻撃などにより、機内は地獄絵図と化していく。機体ごと炎上、墜落する者。空に投げ出され翼に激突する者。作戦によっては出撃した十数機のうち、わずか一機しか帰還できないこともある、決死の攻撃だったことが実感として伝わり、まるで視聴している自分自身が狭いコクピットにいるような錯覚さえ覚えるのだ。爆撃機のリアルをここまで生々しく描き切った作品は記憶になく、これは現代の映像技術ならではの成果である。

 激しい戦闘場面の一方、兵士たちそれぞれの内面を見つめる物語は極めてナイーブだ。死が常に近くにある極限状態でこそ生まれる友情や喜び。本作があくまで連合国軍側から見た戦争ドラマである以上、必ずしも公平ではないけれど、戦史的には英雄である登場人物も過剰にヒロイックに扱われることはない。また、アフリカ系アメリカ人だけで構成された航空部隊の存在など、知られざる史実に光が当てられているのも本作の特徴である。モデルとなった元兵士たちの談話を中心としたドキュメンタリー「ブラッディ・ハンドレッド」も同時配信中なので、ぜひ併せて観ていただきたい。

「マスターズ・オブ・ザ・エアー」

監督/アンナ・ボーデンほか
出演/オースティン・バトラー、カラム・ターナー、アンソニー・ボイル

「バンド・オブ・ブラザース」「ザ・パシフィック」に続き、スティーヴン・スピルバーグ&トム・ハンクスが製作総指揮を務める大作戦争ドラマシリーズ。第二次世界大戦中の米軍爆撃隊の過酷な運命を描く。Apple TV +「マスターズ・オブ・ザ・エアー」全9話配信中。

宇都宮秀幸

編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。

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