2024.11.15
最終更新日:2024.11.15

『ポーカー・フェイス』|型破りなヒロインが噓を見抜く、痛快すぎるコメディミステリー【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。

『ポーカー・フェイス』

『ポーカー・フェイス』
Peacock © Peacock TV LLC. Poker Face © MRC II Distribution Company, L.P. All rights reserved.

型破りなヒロインが噓を見抜く
痛快すぎるコメディミステリー

 物語の冒頭で犯人や犯行の様子を明かしてしまうミステリーの手法を「倒叙型」と呼ぶ。『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』でお馴染みの形式であり、視聴者は犯人がわかったうえで、推理役となる主人公がいかにして犯行を暴き犯人を追い詰めていくか、その過程を楽しむわけだ。

 このドラマの主役であるチャーリーは名探偵でも名刑事でもない、流れ者の平凡な中年女性。ただ一つ、会話の相手が噓をついているかどうかを、人並みはずれた直感と洞察力で見抜いてしまう才能がある。この力を悪用(?)し場末のカジノを荒らしていた彼女だが、ある事件にかかわったことから裏社会のボスに追われる身となってしまう。以来、全米を転々としながらチャーリーはさまざまな人物や犯罪に遭遇していくことになる。

 本作の新鮮さは、主人公チャーリーの個性的な人物像によるところが大きい。プロの捜査官ではない彼女には、まず犯罪を暴かなくてはいけない理由がない。だが、持ち前の陽気でおせっかいな性格と素朴な正義感から、気がつけば事件に首を突っこんでいる。そんなチャーリーが犯人とのなにげないやりとりの中で、噓を嗅ぎつけ真相を追及していく姿をつい応援したくなるのだ。正直に言うと、その推理の鮮やかさはあまりにもご都合主義的であるものの、エピソードごとにバラエティに富んだワンパターンでない意外な展開や、犯人の勝ちか?と思わせておいての見事な逆転の一撃には、毎回思わず「なるほど!」と声が出てしまう。このあたり、ミステリー好きで知られる製作者ライアン・ジョンソン監督の好みやこだわりが強く感じられて好ましい。

 犯罪の舞台は、寂れたガソリンスタンド、バーベキューレストラン、往年のバンドのライブ会場、老人ホーム、田舎のカーレース場など、どれも華やかな都会とは無縁なところばかり。娯楽に徹した本作には小難しいテーマなどないけれど、こうした場所で生きる人々とチャーリーとのかかわりの中から見えてくるアメリカ社会の多彩な断面は、大きな魅力の一つと言えるだろう。ミステリー好きなら見逃せない、隠れたおすすめ作品!

『ポーカー・フェイス』

監督/ライアン・ジョンソンほか
出演/ナターシャ・リオン、ベンジャミン・ブラット、ロン・パールマン

映画『ナイブズ・アウト』シリーズで知られるライアン・ジョンソン監督がクリエイターを務めるコメディミステリー・ドラマ。主演は人気ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のナターシャ・リオン。U-NEXT『ポーカー・フェイス』全10話配信中。

宇都宮秀幸

編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。

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