2024.09.12

『推定無罪』|浮気はしたが殺してはいない... 絶体絶命の男の法廷サスペンス【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。

「推定無罪」

「推定無罪」
画像提供 Apple TV+

浮気はしたが殺してはいない…
絶体絶命の男の法廷サスペンス

 タイトルの「推定無罪」とは、いわゆる「疑わしきは罰せず」という法律上の原則のこと。本来犯罪を追及する側の検事補である主人公ラスティは、同僚で浮気相手でもある女性の殺人事件で一転、容疑者となってしまうが、誰がどう見ても「疑わしき」要素ばかりの人物だ。事件当夜に被害者宅を訪れた姿が目撃され、現場からは彼の指紋やDNAが見つかり、さらには別れたがる被害者に執着しストーカーまがいのメールまで送っていたことが発覚。事件にかかわる人々は当然ラスティに疑いの目を向けるが、視聴者であるわれわれは彼が少なくとも殺人を犯してはいないことを知っている。果たしてラスティは圧倒的不利な状況を引っくり返し、無罪を勝ち取ることができるのか? まずはこのハラハラ感を主人公と共有する面白さに一気に引き込まれる。

 ただしこの主人公、愛する妻や娘と息子をもちながら同僚と浮気を楽しんでいた男であり、自分に不利な事実を平然と隠蔽したりと、保身のためなら手段を選ばぬ自己中心的な人間として描かれ、とても応援する気にはなれないところが本作の最もユニークな点だろう。ハンサムで人に好かれるムードをもちつつも腹の底では何を考えているかわからなそうな、ジェイク・ギレンホールの持ち味が最大限に生かされていると言っていい。

 被害者が過去に起きた娼婦殺人事件とよく似た特殊な縛られ方で死んでいた理由を含め、事件の全体像は最後の最後まで伏せられる。ついに明らかになる真相には驚かされると同時に、クズにしか思えなかった主人公の印象さえ、もしかしたら塗り替えられてしまうかもしれない。ミステリーとしての出来のよさは保証できる一方、「真犯人探し」は実はさほど重要ではない。主人公と同等に、物語の焦点は浮気夫をそれでも信じようとする妻の葛藤にも当てられている。ドラマの底に流れているのは、もとは他人同士である夫婦関係の危うさや、よく知っているはずの家族にも隠された顔が存在するという怖さだ。これは法廷サスペンスの形を借りたシリアスな家族劇であり、そこにこそ興味をひかれる理由があるのだ。

「推定無罪」

監督/アンネ・セウィツキーほか
出演/ジェイク・ギレンホール、ピーター・サースガード

ハリソン・フォード主演で映画化もされたベストセラー小説をもとにした法廷サスペンス。殺人事件の被疑者となってしまった検事補が次第に追い詰められていく。主演は『ナイトクローラー』のジェイク・ギレンホール。Apple TV +にて「推定無罪」全8話配信中。

宇都宮秀幸

編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。

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