2025.04.12
最終更新日:2025.04.12

『ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』|ノア・ワイリーが救命室に帰還! 過激な手法で描く野心的医療ドラマ【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。

『ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』

『ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』
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ノア・ワイリーが救命室に帰還!
過激な手法で描く野心的医療ドラマ

 国内・海外問わず根強い人気を誇る医療ドラマ。そのルーツの一つといえば、名作『ER 緊急救命室』(1994〜2009)であり、作品の象徴的存在がノア・ワイリー演じる正義感あふれる医師ドクター・カーターだった。そんなワイリーが再び救急医療の世界に戻ってきたのが、本作『ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』。救急医療室(通称ピット)に勤務するベテラン医師ロビーを中心に、緊急事態に直面する医療従事者たちの姿がリアリティ満点に描かれる。

 最も特徴的なのは、主人公ロビーが出勤する午前7時に始まり、1話約1時間を費やす15時間のストーリー、つまりほぼリアルタイムで物語が進行するというチャレンジングな手法である。ピットに次々と運び込まれてくる、さまざまな病状の患者たち。当然その対処法もまた千差万別であり、患者たちが抱えたそれぞれの個人的事情も含め、いくつものエピソードが常に並行して展開していくため、観ているこちらも一瞬も気が抜けない。このドラマ、いわゆる劇伴(劇中に流れる音楽)がほとんどないこともあり、いつしか視聴者自らが医療の現場に立ち会っているような気分になってくる。

 ささいなケガがもとで死に直面する男性、危篤となるが延命治療を拒否する老人、誤ってドラッグを摂取した少年、家族に見捨てられた認知症の老婆、望まぬ妊娠をした10代の少女。そんな患者に対応する病院側もまた、初の現場にとまどう新人研修医から百戦錬磨ながら私生活に悩む熟練医師たちまで多彩なキャラクターが揃う。さらにリーダーであるロビー自身も、コロナ禍での極限状態によるトラウマに人知れず苦しんでいる。

 医療ものは作品数が多いぶん、差別化のためか超人的能力をもつ医師やミステリー風の仕掛けなど現実離れした要素が目立つ作品も多い。本作はそうした風潮に真っ向から挑み、生々しい描写をひたすら積み重ねることで、誰にとっても切実な生と死のドラマを静かに伝えてくる。冷静に考えれば、15時間ずっと医療現場の場面が続くなど映画ではあり得ない。一見地味に見えて、これは配信ドラマならではの常識破りの作品なのだ。

『ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』

監督/ジョン・ウェルズほか
出演/ノア・ワイリー、トレイシー・イフェアチョア

救急医療室で働く医師たちの姿を通して、治療現場の現実をリアルに活写するノンストップ医療ドラマ。製作総指揮を務めるのは『ER 緊急救命室』のクリエイターの一人でもあるジョン・ウェルズ。『ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』U-NEXTにて独占配信中。

宇都宮秀幸

編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。

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