2024.06.13

『寄生獣 ーザ・グレイー』|人類VS寄生生物の死闘を描くあの名作漫画が韓国でドラマ化【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。

「寄生獣−ザ・グレイ−」

「寄生獣−ザ・グレイ−」
©岩明均/講談社

人類VS寄生生物の死闘を描く
あの名作漫画が韓国でドラマ化

 かつて実写映画化もされた人気コミック『寄生獣』が韓国でドラマ化。だがこれは単なるリメイクではない。原作の基本設定は生かしつつ、まったく異なるストーリーが披露される完全新作であり、まず主人公のキャラクターからして違う。

 謎の寄生生物“ミギー”に右手を乗っ取られ、奇妙な共生生活を始めることとなる高校生・新一が主役の原作に対し、韓国版の主人公は孤独な女性スイン。逆恨みで襲われ瀕死となった彼女の身体に寄生生物“ハイジ”が侵入するが、けがの修復を優先したため脳まで支配できず顔の右半分だけがパラサイト化してしまう。原作が新一とミギーのバディものだとしたら、こちらはスインとハイジの二重人格的な主人公像と言えるだろう(ハイジは一日15分しか活動できない)。スインは幼い頃、父親から暴力を受け母親には捨てられた経験から心を閉ざしていたが、皮肉にも寄生生物との共闘を通じて他者と生きる意味に気づき、同時にハイジもスインの感情に触れ変化していく。意思疎通が難しいぶん、両者が理解し合っていく過程は不思議な感動を呼ぶ。

『寄生獣』という原作がユニークなのは人類をおびやかす怪物の恐怖を描きながら、最終的には人間自体がもつ暴力性や自然に対する傲慢さが浮かび上がる点にある。今回も投げかけられるのは「人間とはどんな存在か?」という問いかけだ。寄生生物のリーダー的存在である個体は家族、警察、宗教団体を観察し「組織」こそが人間が強者である秘密だと見抜く。集団のために個人が犠牲となる残酷さは、本作のテーマの一つでもある。

 人間に擬態した寄生生物たちの暗躍と、彼らの討伐を狙う特殊部隊の戦いを軸に展開する物語はある種の犯罪捜査ものであり、韓国ドラマならではのシリアスかつダークなムードが魅力。加えて人間対寄生生物、または寄生生物同士の死闘を描く数々のアクション場面では、ゾンビもので培ったヨン・サンホ監督のスリリングな演出力がフルに生かされている。

 オリジナルのファンはもちろん、原作未読の方にも『寄生獣』の世界の本質的な魅力が伝わる意義あるドラマ化である。

「寄生獣−ザ・グレイ−」

監督/ヨン・サンホ
出演/チョン・ソニ、ク・ギョファン、イ・ジョンヒョン、クオン・ヘヒョ

岩明均の名作漫画を原作に『新感染 ファイナル・エクスプレス』のヨン・サンホ監督がドラマ化したSFアクション。人間の肉体を乗っ取る寄生生物と人間たちとの生存を懸けた戦いを描く。Netflixシリーズ「寄生獣−ザ・グレイ−」全6話独占配信中。

宇都宮秀幸

編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。

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