動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。
『THE PENGUIN -ザ・ペンギン-』
バットマン悪役ペンギンの覚醒
鬼気迫るクライム・ストーリー
ペンギンとは『バットマン』シリーズの代表的な敵役の一人。とはいえ、誰もが知るジョーカーと比べ馴染みがない方も多いだろう。原作や過去の映像作品では、異様に尖った鼻や武器にもなる傘などいかにもアメコミ的なキャラクターとして知られるが、このドラマでのペンギンはより現実的な人物として登場する。
コリン・ファレルが完璧な特殊メイクにより別人となって演じる主人公オズ・コブは、街を牛耳るマフィア、ファルコーネ一家のギャング。幹部的立場にはいるものの、醜い容貌や貧しい出自から一族には軽んじられている。つまりは小物であり、およそ主人公らしくないオズだが、一家のボスの死をきっかけに裏社会でのし上がろうと策略を巡らせていく。
一応はアメコミ・ヒーローもののスピンオフである本作は、もし何も知らずに見始めれば、ダークなムードのマフィアものとしか思えないはずだ。敵に対しては残忍だが家族や身内には愛情を注ぐ矛盾した主人公像は、人気ドラマ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』を連想させるし、暴力に支配された容赦ない世界観は名作ギャング映画『スカーフェイス』を思わせる。だが、それら先行作品を踏まえつつも本作にオリジナリティを感じるのは、救いようのない悪党であるオズが、同時に人から見下され軽視される「弱者」でもある点だ。平然と噓をつき、風向き次第で味方も裏切るオズは軽蔑されるべき男のはずなのに、その大胆な行動は彼を踏みにじってきた社会に対する逆襲のようにも思えてくるから面白い。
もう一人の主人公ともいえるファルコーネ一家の長女ソフィアの強烈な物語が、「持たざる者の怒り」という主題をさらに増幅する。謀略により、無実の罪で投獄され地獄を味わったソフィアの孤独な復讐にも、オズと同様になぜか共感の拍手を送りたくなってしまうのである。
ピカレスクロマン(悪党劇)としての背徳的な魅力にあふれつつ、本作はこの過酷な世界で生き延びようとする人々の、野蛮な生命力のようなものを描く心理ドラマでもある。アメコミものは苦手という方こそ、ぜひ先入観なしで観てほしい。
『THE PENGUIN -ザ・ペンギン-』
監督/クレイグ・ゾベルほか
出演/コリン・ファレル、クリスティン・ミリオティ、レンジー・フェリズ
映画『THE BATMAN -ザ・バットマン-』のスピンオフとなる犯罪ドラマ。ゴッサムシティを舞台に悪党オズ・コブ(通称ペンギン)が暗躍する。主演は『イニシェリン島の精霊』のコリン・ファレル。U-NEXT『THE PENGUIN -ザ・ペンギン-』全8話独占配信中。
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。