2024.07.25

『シュガー』|あっと驚く展開が待ち受ける ハードボイルド探偵ミステリー【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。

「シュガー」

「シュガー」
画像提供 Apple TV+

あっと驚く展開が待ち受ける
ハードボイルド探偵ミステリー

 一匹狼の私立探偵がある大富豪からの依頼を受け、行方不明となった彼の孫娘の行方を追うことになる。映画や小説でお馴染みのいわゆる「ハードボイルドもの」では非常によくあると言っていい定番の設定だ。主人公シュガーはクラシックな犯罪映画のマニアで、ハンフリー・ボガートが演じた探偵フィリップ・マーロウの人物像にどこか憧れているふうでもある。事件の捜査中、彼の脳内では往年のノワール映画が次々と再生されるため、視聴者もまた目まぐるしく挟み込まれる名場面の数々を目撃することになる。

 そんな序盤を見て「ああ、これは古典的なハードボイルドにオマージュを捧げた軽くてしゃれたミステリーだな」と筆者は思い、実際それは本作の一面でもあるのだが、物語の途中から事件の真相とは別にどうやらシュガー自身にも隠された秘密があることがわかり始める。シュガーと仲間との会話から察するに「探偵は仮の姿で彼の正体は国家機密にかかわるスパイである」、もしくは多用される名作映画の引用から予想するなら「この話自体が実は撮影中の映画だった」というどんでん返しもあり得る。だがこうした浅はかな推測はすべて裏切られ後半で明らかとなる真実は「え! ウソでしょう!」と声が出る驚くべきものなのだ。

 映画とウイスキーを愛するシュガーはこの世界に存在する芸術や文化の素晴らしさに魅せられている一方、暴力と恐怖が支配する犯罪の地獄にもどっぷり浸かっている。残忍な殺人鬼を演じるロバート・ミッチャムの怪演が有名なカルト映画『狩人の夜』(1955)のシーンが何度も挿入される。これに象徴されるとおり、シュガーとは人間のもつ光と闇の両面を十分に知りながら、なおも世界を見つめ続けようとするストレンジャーなのだ。その愛すべきキャラクターに引きつけられるうちやがてドラマは予想外の結末を迎えるが、真実を知ったうえで第1話から見直せば初見時とはまったく印象の異なる物語が現れることだろう。本作は古きよき探偵ものの現代ならではの再解釈であり、同時に超斬新なジャンル・ミックスドラマでもある。ぜひ予備知識なしの状態で楽しんでほしい。

「シュガー」

監督/フェルナンド・メイレレスほか
出演/コリン・ファレル、エミィ・ライアン

失踪した女性を探す私立探偵シュガーを描くハードボイルド・ミステリー。彼は事件を追ううちに、依頼主の富豪一家に隠された真実と自身の秘密と向き合うことになる。主演は『イニシェリン島の精霊』のコリン・ファレル。Apple TV +「シュガー」全8話配信中。

宇都宮秀幸

編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。

RECOMMENDED