2024.03.19

『もうすぐ死にます』|転生を繰り返す男の結末は? 異色のダーク・ファンタジー【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。

『もうすぐ死にます』|転生を繰り返す男のの画像_1

転生を繰り返す男の結末は?異色のダーク・ファンタジー

 先進国の中でも韓国における自殺率の高さは報道などでたびたび話題となるが、このドラマもまさに将来に絶望した若者イジェの飛び降り自殺という衝撃的な第一話から幕を開ける。たどり着いたのは現世と来世の間のような奇妙な空間。そこに現れた「死」と名乗る謎の女性から課せられたのは「12回転生する間に定められた死から逃れられなければ地獄行き」という過酷な罰だった。生きるのがつらくて死んだのに、さらに何度も生と死の苦痛を味わうはめになるとは…。なんともサディスティックでぶっ飛んだ設定だが、生まれ変わる人物がイジェ自身ではなく、年齢も境遇も異なる他人というのも転生ものとしてはなかなか珍しい。


 乗り移るのは、いじめの標的となる高校生、組織に追われる裏社会の男、服役中の囚人、乳幼児(!)、人気モデル、刑事と実にさまざま。そして各キャラクターに呼応するように、内容自体もミステリーからラブ・ストーリーまで自在にジャンルを横断していく。それぞれの人物を演じる俳優は毎回変わるため散漫になりそうな気もするが、エピソード同士を絶妙にリンクさせる脚本の巧妙さもあり、あくまで主人公イジェの物語であるという本筋からぶれることはない。


 転生する相手自身の記憶とは別にイジェ自身の記憶も残ったままなので、毎度理不尽な死が迫るたび、イジェは前回までの経験を生かし必死に生き残ろうと奮闘する。つまりこれは一度は生きることをあきらめた主人公が、強制的ではあるものの(?)再び人生に立ち向かおうともがく「再生」の物語だとも言える。そして終盤に転生の相手となる意外な人物に乗り移ったとき、イジェは命の本質的な意義に触れることとなる。その結論はある意味平凡だが、やけに胸に迫るのだ。


 本作はバイオレンスやアクション、さらにはサイコスリラーまで盛り込んだ、いい意味で通俗的な娯楽作である一方、生と死について真摯に問いかける切実なドラマでもある。普通の生活を送ることさえ簡単ではないシビアな世の中だけに、それでも生きねばならないわれわれにとって避けては通れぬテーマがそこにある。



『もうすぐ死にます』
監督/ハ・ビョンフン
出演/ソ・イングク、パク・ソダム、コ・ユンジョン

生きることをやめた青年が罰として12回の死と転生を体験するダーク・ファンタジー・ドラマ。原作は韓国で人気のWebトゥーン。主人公が転生する人物を豪華キャスト陣が演じることも話題に。プライム・ビデオ「もうすぐ死にます」全8話独占配信中。



宇都宮秀幸
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。


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