動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する連載。今回は、韓国で人気のWEBコミックを豪華キャストで実写化した大作アクションドラマ『ムービング』。
多彩な要素を詰め込んだ 新鮮な超能力バトルもの
このドラマに登場する特殊能力は、例えば手を動かさずすべてを思いのままにできるような優雅なものではない。スーパーパワーは常に肉体の実感とともにあり、能力者は誰もが苦痛を感じボロボロの姿をさらして戦う。洗練されたSFとは真逆の生身の人間を感じる作品だ。
物語は飛行能力の力を隠して暮らす優しい性格の高校生ボンソクと、どんな傷でも一瞬で再生する能力をもつ転校生ヒスの出会いから始まる。序盤は完全にほのぼのした青春コメディ風で戸惑うが、平凡な市民として生きる能力者たちを、次々暗殺していく謎の男フランクが登場するあたりから次第に不穏な空気が漂いはじめる。それぞれ自分の秘めた力に悩む純情な高校生二人の淡い恋のかわいさと、超残酷な描写が連発される暗殺シーンのあまりの落差に驚く人も多いだろう。
本作はまず壮絶な超能力バトルアクションであることは間違いないが、同時に学園ものであり、親子の絆を描く泣けるヒューマンドラマであり、国家の冷酷さを訴える政治サスペンスであり、さらには切ない大人のロマンスを扱う恋愛ものでもある。つまりは娯楽作品のあらゆる要素をこれでもかと詰め込んだミクスチャー・ドラマと言っていいかもしれない。
主に若者たちをメインとした冒頭から中盤は一転して数十年前、その親たちの過去に迫る章となり、作品のトーンも重厚で落ち着いたものとなる。秘密組織の工作員で飛行能力をもつドゥシクと彼を探る使命を帯びたミヒョンの悲恋。一方、異常な再生能力を武器に裏社会で生きるジュウォンと彼が愛した女性ジヒの出会いも描かれる。やがて舞台は現代に戻り、親子二代、敵味方が入り乱れたクライマックスの戦いへと突入していくのだ。
前述のように本作はサービス満点の娯楽作だが、朝鮮半島の現代史を背景にしたシリアスな一面もあり、特殊能力という噓を絵空事と感じさせない真剣さも魅力。そして思わず目を背けたくなる数々の暴力描写とは裏腹に、登場人物に向けられる視線は敵役にさえも等しく優しい。まだ少し早いけれど筆者的には「今年最も面白かったドラマ」と認定したい!
『ムービング』
監督/パク・インジェほか
出演/リュ・スンリョン、ハン・ヒョジュ、チョ・インソン、イ・ジョンハ
韓国で人気のWEBコミックを豪華キャストで実写化。製作費約70億円を投じた大作アクションドラマ。超能力を隠して暮らす高校生たちと複雑な過去をもつ親たちが直面する危機を、二世代にわたるスケールで描く。ディズニープラス スター「ムービング」全20話独占配信中。
宇都宮秀幸
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。