2023.10.26

『一流シェフのファミリーレストラン』|料理ものの定石を超えたパワフルな群像ドラマ【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する連載。今回は、料理を媒介としたパワフルで率直なヒューマン・ドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」 。

『一流シェフのファミリーレストラン』|料の画像_1

料理ものの定石を超えた パワフルな群像ドラマ

 邦題だけを見るとファミレスの話?と誤解しそうだが、日本のチェーン展開のアレとは全然関係ないことをまずお伝えしておきたい。舞台はシカゴの大衆向けサンドイッチ店。かつて有名店のシェフも務めた主人公カーミーが、自殺した兄が経営していたこの店を引き継ぐはめになるところから物語は幕を開ける。古いやり方に固執するスタッフを率いて孤軍奮闘するカーミーは、若き女性料理人シドニーを起用し店を立て直そうとする。


 シェフやレストランを題材とした映画やドラマは数多く、この作品も一見すると「突然現れた天才シェフがその技術で店を救う」といった、よくある話に思えるかもしれない。だが本作の主人公は、料理の才能はあるものの内面にさまざまな問題を抱えた平凡な人間であり、物語もけっして型どおりには進まない。時にはカーミー自身が問題の火種になることもあるし、粗暴な共同経営者で兄の親友でもあったリッチーをはじめ、周囲の人々もそれぞれが常に葛藤に苦しんでいる。どの人物にも等しく光が当てられ凡庸なドラマのような引き立て役は誰もいない。ひと言で表すなら、これは料理を媒介としたパワフルで率直な群像劇なのだ。


 まるで野戦病院のような混乱状態に陥った厨房を、約20分間におよぶワンショットでとらえた強烈なエピソードに代表されるように、本作は料理ものという先入観をぶち壊す刺激と挑発に満ちている。これまで描かれることの少なかった料理業界におけるハラスメントや搾取の問題さえも、主人公の受けた心の傷として触れられているのは非常に現代的と言える。


 一方で、本質となるのは普遍的でシンプルなテーマである。お互いにエゴをぶつけ合っていた登場人物たちが、店を再建するための幾多の経験を通じてたどりつくのは「人は他者を敬い、自身の問題を直視して変わることができるのか?」という問いかけだ。それ自体目新しくはないけれど俳優たちの実体感ある演技により観るわれわれの感情は激しく揺さぶられる。数々の料理に食欲をかきたてられ、同時に心も満たされる秀作。鑑賞を始めたらイッキ見は確実と保証したい!


『一流シェフのファミリーレストラン』
監督/クリストファー・ストーラーほか 
出演/ジェレミー・アレン・ホワイト、アイオウ・エディバリー、エボン・モス=バクラック

若き料理人が兄の遺した店を立て直そうと奮闘するヒューマン・ドラマ。若き日のダスティン・ホフマンを思わせる主演J・A・ホワイトは本作で数々の演技賞に輝いた。Disney +「一流シェフのファミリーレストラン」シーズン1〜シーズン2配信中。



宇都宮秀幸
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。



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