2023.09.20
最終更新日:2024.03.08

『プラトニック』|人生の岐路に再開した中年男女の友情コメディ【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する連載。今回は、コメディ映画のヒット作で知られるニコラス・ストーラー監督が大人の男女の友情を描く『プラトニック』。

『プラトニック』|人生の岐路に再開した中の画像_1

人生の岐路に再会した 中年男女の友情コメディ

 男と女の間に果たして真の友情は成立するのか? 古くはロブ・ライナー監督の名作映画『恋人たちの予感』(1989)をはじめ繰り返し描かれてきたテーマだが、多様性の時代である現代においてもこのジレンマはいまだ健在のようだ。


 学生時代、男女でありながら親友だったシルヴィアとウィル。弁護士同士の結婚を経て子だくさんの専業主婦となったシルヴィアと、バーの経営者で最近離婚したばかりのウィルは中年期を迎え久々の再会を果たす。さて、二人の関係は?


 定石どおりのラブ・コメディであれば、男女の友情は次第に恋愛へと発展していくところだが、このドラマはそう単純ではない。当人同士はあくまで旧友と自覚しているし実際性的なムードは皆無なのに、周囲から見ればシルヴィアとウィルの間柄は少々親密すぎる。破天荒なウィルと楽しそうにハメを外すシルヴィアを見て、彼女のマジメすぎる夫は言いようのない疎外感を覚える。ウィルもまた年齢の離れた若いガールフレンドをつくってみるが、どうもシルヴィアといるときのように自然にふるまえない。はっきりと名づけられない人と人との関係性や、微妙すぎて映画やドラマではあまり描かれることのない感情の揺れが、本作では笑いの中にちりばめられている。


 恋愛感情よりも、むしろ焦点が当てられているのは人生の岐路にさしかかった大人が味わう、いわゆる「中年の危機」のほうだ。若かった時代のお互いを知るシルヴィアとウィルは、40代を迎えた今、かつての親友を鏡のように見ることで、自分たちが本当に望んだ人生を歩んでいるのか? を否応なく考えることになる。再会をきっかけにした青春が戻ったような騒動の数々は、彼らが真の大人になるための通過儀礼なのかもしれない。


 多少悪ふざけがすぎるエピソードもあるものの、本作は気のきいた会話が楽しめ何度も大笑いさせてくれるセンスに富んだコメディだ。同時にこの物語は、いまだ生き方に迷う大人たちに向けた、ささやかな連帯表明でもある。気の合う友人は人生を楽しくする。そんな当たり前のことに気づかせてくれる良作である。


『プラトニック』
監督/ニコラス・ストーラー 出演/セス・ローゲン、ローズ・バーン、アンブリット・ミルハウス

『ネイバーズ』など数々のコメディ映画のヒット作で知られるニコラス・ストーラー監督が大人の男女の友情を描く。主演は『フェイブルマンズ』の人気俳優セス・ローゲン。AppleTV+「プラトニック」全10話配信中。



宇都宮秀幸
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。



©Apple TV+

RECOMMENDED