動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する連載。今回は、人気コメディアン、ネイサン・フィールダーが仕かける異色のリアリティ・ショー『リハーサル -ネイサンのやりすぎ予行演習-』。
これはリアルか虚構か!? 過剰な人生のリハーサル
最初にお断りしておくと、これはいわゆる「普通のドラマ」ではない。なので本コラムでご紹介することに少しためらいを感じたものの、いや、もしかしたらこの作品こそある意味「ドラマ」の最先端なのかも?と思い直した次第である。体裁としては一般人参加型のリアリティ・ショー、つまり視聴者はドキュメンタリーの一種として見始めることになる。
企画・進行役を務めるのは、カナダ出身の新進コメディアン、ネイサン・フィールダー。内容は、人生の重大な場面、例えば友人に秘密を打ち明けたいという人のために、事前に徹底的なシミュレーションを行うというものだ。邦題に「やりすぎ予行演習」とあるとおり、このリハが半端ではない。本番当日と同じ飲食店のセットを丸ごと造り、相手役としてプロの俳優まで雇うし、あらゆる会話のパターンを想定して何十回も練習を行う。
番組のメインとなる独身女性が子育てを擬似体験する企画でも、リアリティを出すためにネイサン自身が夫役として同居し、女性に短期間に育児の苦労を味わってもらう目的で息子として年齢の異なる子役を次々と入れ替えていく。偏執的とも言えるほど手間やお金をかけて、現実を模倣しようとするネイサンの情熱は異様だが、ここまではまだいい。予行演習に参加させる俳優のワークショップを開いたネイサンは、店員を演じる俳優を実際に食堂で働かせ、さらにその俳優の私生活を体感するためにネイサン本人が俳優の部屋に住み別人として生活を始める。虚構の中に何重にも虚構が入り込み、筆者はこのあたりで自分が一体何を見ているのか皆目わからなくなってきた。
そもそも、この番組全体がモキュメンタリー(フィクションをドキュメント風に演出する手法)であると仮定することもできる。人は皆、ある役割の自分という人物を演じて生きているわけで、ネイサンの真の狙いはそんな人生の虚構性をあぶり出すことなのかもしれない。真実はどうあれ、ただの作り話とは違う劇薬のような刺激が感じられるのは確実。半笑いで見るうち最後は背筋が寒くなる、コメディかつホラーでもある作品だ。
『リハーサル -ネイサンのやりすぎ予行演習-』
監督・脚本・出演/ネイサン・フィールダー
人気コメディアン、ネイサン・フィールダーが仕かける異色のシリーズ。人生の重要イベントをリハーサルする番組の制作過程で、ネイサンは困難に直面する。U-NEXT「リハーサル -ネイサンのやりすぎ予行演習-」全6話U-NEXTにて見放題で独占配信中。
今からでも間に合うネットドラマ
宇都宮秀幸
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。
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