動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する連載。今回は、HBOの大ヒットドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の待望のスピンオフ作品『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』。
女と女の激突が嵐を呼ぶ 大人気ファンタジー前史
もしも配信ドラマのオールタイム・ベスト10を決めるとしたら、大作ファンタジー「ゲーム・オブ・スローンズ」(以下GOT)が上位に入ることに異を唱えるドラマ好きはいないだろう。架空の王国の覇権をめぐる壮大な群像劇であるGOT。圧倒的な人気の秘密は、エゴや欲望をむき出しにした人々が激突する姿を、ファンタジーでありながら忖度や遠慮なしで描き切るリアルで過激な作風にある。
さて、GOTの約200年前を舞台とした最新シリーズ「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」もまた、刺激性という意味ではGOTにまったく引けを取らない。強大なドラゴンを操る一族ターガリエン家の人々を軸に、王位継承権を懸けた熾烈な闘争が展開。主演俳優の一人が今作について聞かれ「トゥー・ブラッディ・ウィメン(血の気の多い女二人)」と答えたように、渦中にいるのは王の娘である王女レイニラと、王の妻となる王妃アリセントの二人の女性である。男性優位の王家で彼女たちが抱える屈辱や憎悪こそが物語の原動力。親友だった少女時代を経て、やがておのおのの子どもたちも巻き込んだ後継者争いが勃発していく。
誤解を恐れずに語るなら、GOTがそうだったように、今作の大きな魅力の一つはいわゆる「昼ドラ」的な下世話でスキャンダラスな要素だろう。王家の裏側は、伝統ある家系の顔とは裏腹に秘密と欲にまみれている。王女は夫とは別の男の子どもを産み、王族の男らは次々と妻を替える。複雑によじれた家系図をのぞき見るような暗い快感こそ、GOTから続く視聴者の密かな楽しみとなることは間違いない。だが、これらの登場人物たちを不道徳で許されざる人間に感じるかと言えば、むしろ逆だ。親との関係による心の苦しみやさまざまなコンプレックスに悩み、時に大きな過ちも犯す彼らはひどく人間的であり、だからこそその過酷な運命の行方から一瞬も目が離せなくなるのだ。長大で人間関係も複雑なGOTと比べ、主に一つの一族を焦点としたぶん、見やすいとも言える今作。予備知識もさほどいらない前日譚なので、意外にGOT入門編として最適かもしれない。
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』
監督/ミゲル・サポチニクほか 出演/パディ・コンシダイン、マット・スミス、オリヴィア・クック、エマ・ダーシー
HBOの大ヒットドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の待望のスピンオフ作品。はるか過去の世界を舞台に、王の座をめぐる争いが壮大なスケールで描かれる。ドラゴン同士の戦闘など迫力のバトル・シーンも注目。U-NEXT「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」全10話独占配信中。
宇都宮秀幸
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。