ジメッとした季節にオススメしたいラブコメがある! 一目惚れの出会い、ハッピーエンド、そして舞台はハワイ。“ラブコメの定番”が詰まっているので、気分が上がることは間違いない!?
アダム・サンドラーとドリュー・バリモアが奏でる、王道ラブコメディ
ーー山田孝之さん、長澤まさみさん主演で2018年に日本でもリメイクされたラブコメ映画の王道作品、『50回目のファースト・キス』(2004年)です。
ジェーン・スー(以下、スー):前回、前々回とは打って変わって、今作はライトなラブコメ映画。観て思ったんだけど…ライトな作品って満足度は高いけど、語りたくなることが少ない!(笑)
高橋芳朗(以下、高橋):それな! ひさしぶりにライトなラブコメを観て改めて痛感した(笑)。では、まずはあらすじを簡単に。「ハワイの水族館で獣医師として働くヘンリー(アダム・サンドラー)は、後腐れのない一夜の恋を楽しむプレイボーイ。そんな彼がある日カフェで出会ったルーシー(ドリュー・バリモア)に一目惚れ。ふたりはすぐに意気投合、翌日も同じカフェで会う約束をしたものの、再会してもルーシーはヘンリーのことを一切覚えていない。なんと彼女は、交通事故による記憶障害で前日までの出来事をすべて忘れてしまう後遺症を負っていたのだ。それでもなんとかルーシーを振り向かせようと、ヘンリーは毎日彼女にアプローチを開始。フラれる日々を繰り返すが、徐々にルーシーに変化が訪れて…」というお話。
スー:ラブコメ映画では定番の「さまざまな事情で愛を信じられなくなった男女がくっつくまでの話」だね。今回はルーシーに、かなり特殊な事情があるけど。ところでラブコメ映画と言えばやや強引なご都合主義がテンコモリですが、今回も、ヘンリーが「この子はスペシャルだ!」みたいな感じでいきなり恋に落ちたね(笑)。
高橋:確かに。ヘンリーがこれまで遊んだ女性に対してルーシーはなにが違っていたのか、明確には示されないからね。
スー:ルーシーがヘンリーを受け容れた理由も、正直よくわからないんだけどね。お父さんのお墨付きになったっていう場面以外に、きっかけが見当たらなかった。
高橋:うん。でもご指摘通り、お父さんに自分がデートしている相手であることを告げられたのを契機にルーシーの態度が軟化していったところはあるかもしれない。
「パパも弟のダグも、みんな君を想ってる。(僕たちのことは)いつでも喜んで話をするし、質問にも答えるよ。君は最高だ」--ヘンリー
スー:最初、ヘンリーはお父さんに疎まれていたけど、あるところから頑張りを認められたじゃない? それが男同士の和解って感じで、なんかルーシーの気持ちそっちのけな気がして。そこは若干気になったんだけどね。とはいえルーシーは自分が毎日記憶喪失してたなんて知らなかったから、まぁ親を信じるしかないか。ところで、不埒なナンパばかりしていたヘンリーは、いわゆる“一目惚れ”をしたわけだけど…一目惚れってしたことある? 私はない。一目惚れしたっていう人の話もあまり聞かないし。
高橋:一目惚れか…言われてみると経験ないな。ラブコメで男が一目惚れするケースが多いのは、やっぱりドラマ映えということなんだろうね。「運命の恋」ってやつ。単に話を転がしやすいからというのもあるのかもしれないけどさ。
スー:『(500)日のサマー』(2009年)、『愛しのローズマリー』(2001年)、『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』(2013年)など、男が女に一目惚れして始まるラブコメ映画はすぐ思いつく。でも、女が男に一目惚れする作品が思いつかないんだよなあ。以前取り上げた『セレンディピティ』(2001年)は、男女ともに一目惚れ…っていうか、あれは多くの女性が大好物な「運命としかいいようのない出会い」ってやつだわ。一目惚れとはちょっと違うかも。
高橋:『あなたが寝てる間に』(1995年)はヒロインが毎日駅で見かける男性に淡い恋心を寄せているという設定だったね。ある意味一目惚れといえるかもしれないけど、最終的に結ばれるのは彼のお兄さんだった(笑)。女性が主演のラブコメは、男性のケースとは逆に反目し合っていた相手と氷解して、というパターンが多いイメージがある。
スー:そうそう、ラブコメ映画では相思相愛のハッピーエンドが定番だから、エンディングから逆算すると、スタート地点では仲たがいしてるくらいのほうが起承転結させるのに効率いいのよね。だとしたら、男の一目惚れスタートもダメなはずなんだけど…。なぜかそれはアリになってる。
高橋:これは統計とってみるとおもしろいかもね。ラブコメの脚本を書くにあたって、なにかしらのセオリーやフォーマットみたいなものが確立されているのかもしれない。
スー:ラブコメ映画は女性向けに作られていると仮定すると、「女は自分から一目惚れしない」という価値観がお客さんに好まれてるってことなのかな。それとも「一目惚れされたい」っていう女の願望? ルーシーは一晩寝たら記憶がすべて消えちゃうから一目惚れするチャンスは毎朝あるんだけど、絶対にヘンリーに一目惚れしてなかったよね(笑)。
「あなたが誰か知らない。でも毎晩、あなたの夢を見る。なぜなの?」--ルーシー
スー:『ウソつきは結婚のはじまり』(2011年)もアダム・サンドラー主演で、舞台がハワイだよ。アダム・サンドラーはどれだけハワイが好きなんだ(笑)。近頃は自粛生活が続いてたから、観る方としてはハワイが舞台だと、それだけで癒されるし気分も上がるけどね。
高橋:実はアダム・サンドラー作品の一部は撮影とバケーションを兼ねてるものがあるんじゃないかってにらんでる(笑)。悪友たちと休日を田舎町で過ごすドタバタ劇『アダルトボーイズ遊遊白書』(2013年)もそんな感じだったな。しかしこうしてざっとフィルモグラフィを振り返ってみると、ラブコメのアダム・サンドラーは基本的にどれも役柄と演技が同じなんだよね。
スー:そうだね、いつもユーモアのある、やや冷めた一般人って感じの役。今回は相手役のドリュー・バリモアが、これまたいいんだよね。ラブコメ映画の定番「主人公の女の子がどんどん可愛くなっていく」がすさまじかった! さすがドリュー。表情はもちろんのこと、最初と最後では髪や肌のツヤさえ違うのよ。メイクの下地変えた!? みたいな。ドリューはモデルさんタイプではないから、観ている女性たちが「そりゃそんだけ美人でスタイルも良かったら…」って落ち込まなくて済むのよね。つまりはそれにも勝る魅力がドリューにあるってことで、「私にもこんなことが起こるかも?」って思うのは、壮大な勘違いなんだけど!
高橋:ドリューは笑顔一発でゴール決められるからな。そういえばドリュー出演作のお約束、スパンダー・バレエの「True」はこの映画でもばっちり流れる。もはや本人がスタッフにリクエストしているか契約書にその旨明記されているとしか思えない(笑)。
スー:あははは! 気づかなかった。けど、使われている音楽はプレイリストが欲しくなるパターンの王道選曲だよね。
『50回目のファースト・キス』
監督:ピーター・シーガル出演:アダム・サンドラー、ドリュー・バリモア
公開:2005年6月18日(日本)
製作:アメリカ
Photos:AFLO