コールガールの女の子が素敵なレディに変身し、幸せを掴む話として知られるラブコメの名作『プリティ・ウーマン』。だが、王子様と思われていたヒロインの相手は…実は酷い男だった!? 公開から30年経った永く愛され続ける作品を二人はどう読み解くのか?
今だからこそ感じる、30年前のシンデレラストーリーの違和感
——公開から今年で30周年の『プリティ・ウーマン』(1990年)を取り上げます。久しぶりにご覧になられていかがでした?
ジェーン・スー(以下、スー):公開当時は「現代のシンデレラ物語」的なロマンティック・ムービーとして観ていた記憶はあったものの、なぜ自分がそう思っていたのかを思い返すと…いま観たら同じ気持ちにはならないだろうなって予感はありました。30年ぶりに女友だちと一緒に観て、みんなでシュンとしちゃった。王子様の物語だと思ってたけど、全然違うじゃんって。大人になると見えてくるものが変わる。
高橋芳朗(以下、高橋):そうね、僕も興味深くて思わず二回観てしまったよ。では、まずは簡単にあらすじから。「ウォール街きっての実業家エドワード(リチャード・ギア)は、ハリウッドで偶然コールガールのヴィヴィアン(ジュリア・ロバーツ)と知り合う。ヴィヴィアンに興味を持ったエドワードは、彼女と一週間3000ドルでアシスタント契約を結ぶことに。エドワードにとってはただの気まぐれ、ヴィヴィアンにとっては最高のお客だったが、やがて二人はお互いに惹かれ合って…」というお話。ジュリア・ロバーツはこれでゴールデン・グローブ賞主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)を受賞して一躍トップスターになるわけだけど、まあそれも納得。彼女の出世作にしてキャリア中、最もチャーミングに撮られた一本であることはまちがいない。
スー:ホントに魅力的。ジュリア・ロバーツのチャームで話がもっているってことに、改めて気づいたよ。だけど、女のことがすべて男の都合でしか描かれてなくて愕然ともしたよ。
高橋:それは二人の出会いの瞬間からそう。不慣れなマニュアル車の運転で途方に暮れてるエドワードの前にヴィヴィアンが現れたと思ったら、いきなり華麗なドライビングテクニックで彼を宿泊先のホテルまでガイドするくだりとか、いくらなんでも好都合すぎる(苦笑)。冒頭で割と生々しいストリート描写があるからなおさらその対比が、ね。
スー:「売春婦なのにマニュアル車の運転に詳しい」とかね、それどうなの? って。多くの人に愛されるロマンティック・ムービーであることは否定しないし、ジュリア・ロバーツもびっくりするほど素敵。記憶に残る名シーンもたくさんある。だけど、2020年に観ると、手放しで礼賛はできないのが正直なところ。ヴィヴィアンとエドワードの描き方、ラブコメ映画ならでは、とかフィクションだから、では済まされないリアリティのなさが気になってしまったな。ラブコメ映画としてもポジティブなメッセージはなかったと思うし。
『プリティ・ウーマン』
監督:ゲイリー・マーシャル
出演:リチャード・ギア、ジュリア・ロバーツ、ヘクター・エリゾンド
初公開:1990年12月7日(日本)
製作:アメリカ
Photos:AFLO
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。コラムニスト・ラジオパーソナリティ。近著に『これでもいいのだ』(中央公論新社)『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)。TBSラジオ『生活は踊る』(月~金 11時~13時)オンエア中。
高橋芳朗
東京都港区出身。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ、選曲家。「ジェーン・スー 生活は踊る」の選曲・音楽コラム担当。マイケル・ジャクソンから星野源まで数々のライナーノーツを手掛ける。近著に「生活が踊る歌」(駒草出版)。