心のすれ違いで生まれる恋愛関係の変化…。コメディ要素満載の生々しく痛い“ロマコメ”を二人が読み解きます!
リアルすぎる! 取り返しのつかない恋愛物語
——今回は『ステラが恋に落ちて』(1998年)を取り上げる予定でしたが、どうしても取り上げたい作品があるとのことで『セレステ∞ジェシー』(2012年)に変更です。なぜ、こちらの作品を?
高橋芳朗(以下、高橋):公開タイミングに劇場で見て以来、ずっと頭の片隅に引っ掛かっているような映画で。これまでメインで扱ってきたタイプの純然たるラブコメディではないんだけど、スーさんとのやり取りのなかでなにかと引き合いに出されることが多いし、ラブコメ周辺にある重要作として取り上げておく価値は十分あるんじゃないかと思った次第。ちなみに、海外のウィキペディアではロマンティックコメディとしてカテゴライズされているんだけどね。ともあれ、『ステラが恋に落ちて』を楽しみにしていた方は本当にごめんなさい!
ジェーン・スー(以下、スー):『ステラが恋に落ちて』は働きすぎた中年女の白昼夢みたいで私は好きな映画なんだけどね(笑)。『セレステ∞ジェシー』のほうが共感性が高いのはわかる。では、今回は私があらすじを紹介します! 「セレステ(ラシダ・ジョーンズ)とジェシー(アンディ・サムバーグ)は笑いもノリもピッタリ合う、誰もが羨む理想的な夫婦。だが、会社を経営し、充実した日々を送るセレステに対し、夫ジェシーは、ヒマを持て余す売れないアーティスト。その関係は30代に突入しても変わらなかった。そんなある日、セレステの提案で離婚のための別居を開始。理由は『最高に気の合うジェシーとは永遠に親友でいたい』から。しかし、ある出来事をきっかけに、セレステはジェシーの大切さに気づくのだが…」というお話。これ、私にとってはラブコメ映画ではなくてホラームービーのジャンルなんだけど。ヨシくんはどのへんがグッとくるの?
高橋:取り返しのつかない恋愛悲劇として楽しんでいるところもあるし、自分の過去の失恋体験と重ね合わせて遠い昔に負った古傷をわざわざ確認しにいくような感覚もある(笑)。
スー:そこを楽しめる胆力がすごい。私にとっては、過去の亡霊が襲ってくるような感じでホラー。セレステもジェシーも、頭を抱えたくなるようなボタンの掛け違いばかりだもの。セレステは女、ジェシーは男。でもヨシくんが共感するのは…。
高橋:セレステだね。自分の迂闊な言動一発でレッドカードを食らったトラウマがある人なら男女問わず彼女に感情移入してしまうんじゃないかな。あとはオープニングのタイトルバックで流れるリリー・アレンの「Littlest Things」があまりにキラーすぎて強制的にセレステ側に立たされてしまうというのもある。この曲は「ときどき街でカップルがキスをしているのを見ると自分が過去の思い出に浸ってるのに気付かされる」という一節で始まるんだけど、要は失恋の痛手から抜け出せないでいる女性の苦しみを歌った曲。付き合っていたころの些細だけど愛おしい思い出(Littlest Things)一つひとつが、別れた途端に凶器となって襲いかかってくるさまがこれでもかってぐらいに生々しく描かれてる。
『セレステ∞ジェシー』
監督:リー・トランド・クリーガー
出演:ラシダ・ジョーンズ、アンディ・サムバーグ、イライジャ・ウッド、ウィル・マコーマック
初公開:2013年5月25日
製作:アメリカ
Photos:AFLO
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。コラムニスト・ラジオパーソナリティ。近著に『これでもいいのだ』(中央公論新社)『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)。TBSラジオ『生活は踊る』(月~金 11時~13時)オンエア中。
高橋芳朗
東京都港区出身。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ、選曲家。「ジェーン・スー 生活は踊る」の選曲・音楽コラム担当。マイケル・ジャクソンから星野源まで数々のライナーノーツを手掛ける。近著に「生活が踊る歌」(駒草出版)。