アマゾンが浸透する前の書店事情もわかる!? トム・ハンクスとメグ・ライアンの王道ラブコメを掘り下げます。
今作のキーワードは“Before ベソス”
——今回はトム・ハンクス&メグ・ライアン主演の『ユー・ガット・メール』(1998年)です。
ジェーン・スー(以下、スー):リチャード・カーティスと並ぶ「名作ラブコメ映画の作り手」として名高い、ノーラ・エフロンの脚本・監督作品。コメディにしろシリアスにしろ、ラブストーリーは「すれ違い」が盛り上がりのキモだけど、この作品は捻りの利いたすれ違い描写が秀逸。設定を思いついた時点で、製作陣は「優勝!」と思ったはず。ラブコメ映画のお手本のような一本だったね。
高橋芳朗(以下、高橋):まさに。この翌年に公開される『ノッティングヒルの恋人』(1999年)と共にラブコメディのパブリックイメージを担う代表的な作品と言っていいと思うよ。では、本題に入る前に簡単にあらすじを。「ニューヨークで亡き母から受け継いだ小さな書店を経営しているキャスリーン(メグ・ライアン)。彼女は同棲している恋人がいるにも関わらず、インターネットで知り合ったハンドルネーム“NY152”の男性とのメールのやり取りに夢中。そんなある日、キャスリーンの店の近くに大型書店がオープン。その煽りを受けてキャスリーンの小さな書店はどんどん客が減り売り上げも落ちていくが、実はこの大型店の経営者のジョー(トム・ハンクス)こそが“NY152”の彼だった。だが、そんなジョーもまた恋人がいるものの見ず知らずの彼女とのメールのやり取りを密かな楽しみにしていたのだった。互いに心惹かれるメール相手だと知らず、二人は商売敵として実生活では顔を合わせれば喧嘩ばかり。果たしてキャスリーンとジョーの関係はどうなっていくのか…」。
スー:「見ず知らずの相手とメールのやり取り」ってのが、時代だ。
高橋:1995年にWindows95の登場で一気にパソコンが普及したことを考えると、この映画が公開された1998年は電子メールでのやり取りがようやく広く定着し始めたころなのかな? そんなわけで劇中のインターネットやメールの描写には当然隔世の感があるんだけど、映画としては意外にもほとんど古さを感じなくて。
スー:おっしゃる通り。と同時に、AOL特有の「ユー・ガット・メール」ってお知らせ音とか、ダイヤルアップのジーコロコロが繋がるまでのドキドキとか、ノスタルジックなディティールもたくさんあったね。
『ユー・ガット・メール』
監督:ノーラ・エフロン
出演:トム・ハンクス、メグ・ライアン、グレッグ・ギニア、デイヴ・シャペル
初公開:1999年2月11日
製作:アメリカ
Photos:AFLO
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。コラムニスト・ラジオパーソナリティ。近著に『これでもいいのだ』(中央公論新社)『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)。TBSラジオ『生活は踊る』(月~金 11時~13時)オンエア中。
高橋芳朗
東京都港区出身。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ、選曲家。「ジェーン・スー 生活は踊る」の選曲・音楽コラム担当。マイケル・ジャクソンから星野源まで数々のライナーノーツを手掛ける。近著に「生活が踊る歌」(駒草出版)。