ラブコメディにおける男性と女性の役割は完全に変わるのか!? 現状のアメリカ・トランプ政権への皮肉も交えた、最新作を紹介します。
男女が逆転したシンデレラストーリー!?
——旧名作を続いて紹介してきましたが、今回は最新作の『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』です。いかがでしたか?
ジェーン・スー(以下、スー):最高でした。いつか王子様が迎えにきてくれることを夢見る旧来型ラブコメ映画のスティグマを、完全に払拭してる! 私たちが知る限り、現時点でのラブコメ映画最高傑作ですね。
高橋芳朗(以下、高橋):ステレオタイプな男女の社会的役割が逆転したラブコメが増えつつあることは当連載でもたびたび触れてきたけど、これはその最新型にして最高傑作と言っていいだろうね。では、まずは簡単にあらすじを。「アメリカの国務長官として活躍する才色兼備なシャーロット(シャーリーズ・セロン)。聡明でエネルギッシュな彼女は、ついに大統領選への出馬を決める。そんなある日、シャーロットは才能はあるが頑固な性格がゆえに勢いで会社を辞めてしまった無鉄砲なジャーナリストのフレッド(セス・ローゲン)とパーティで出会う。一見接点がなさそうな正反対のふたりだが、実はフレッドにとってシャーロットはティーンの頃の初恋相手。予想外の再会にふたりは思い出話に花を咲かせ、シャーロットは理想と夢に溢れていた若き日の自分をよく知るフレッドに大統領選挙のスピーチ原稿作りを依頼する。世界各国を一緒に飛び回ることになったふたりは、原稿の作成を通じて次第に惹かれあっていくが…」というお話。
スー:現実的に考えたら「ないでしょ」って話なんだけど、「あるかも…!?」まで昇華してくる手腕がすごい。これまでも既存の価値観や偏見を覆そうとした作品はたくさんあったけど、正しさを優先しすぎて物語がおざなりになっていたり、看過できないポイントが残っていたりして、こなれきれてなかった。だけど、この作品はそのあたりをすべてクリアしていると思う。
ふたりの心の距離を表現する仕掛けがすごい!
——そんな理想的なふたりですが、印象に残るシーンはどこでしょう?
スー:スピーチ原稿作成のためにフレッドがシャーロットをインタビューするシーンがあるでしょ? アレがデートっぽくていいんだな!
高橋:甘酸っぱいよねー。フレッドとの交流が徐々にシャーロットの趣味に影響を及ぼしていく様子も楽しい。マーベル・シネマティック・ユニバースに興味を持ち始めて外遊先のホテルで『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)を、観ていたり、なにげなく2チェインズの曲を口ずさんでいたり。しまいには遊説の余興でリル・ヨッティを招聘するほどラップ好きになるという(笑)。
スー:注目してほしいのはふたりの衣装。序盤、シャーロットは柔らかな素材のデキる女風スーツで、フレッドは全身ワークマンスタイル。時間が経過するにつれシャーロットはカジュアルになって、フレッドはキレイ目カジュアルに変わっていく。ふたりの心の距離が近づいていくさまを、衣装で表現しているのね。心が離れてしまう場面では、ソフトスーツと全身ワークマンに戻ったりね。そして、ふたりのスタイリングが完璧に一致する場面が2か所!大人カジュアルと、正装。どちらもお互いの心がぴったりくっついた場面。ああ、最高! 調子に乗ってゲラゲラ笑ってると「男は強い女とデートしたがらない。勃たなくなるから」っていう真髄パンチラインがぶっ込まれるっていうね…。
高橋:多忙を極めるシャーロットの「5分すら触れ合えない女を誰が望むと思う?」というセリフも刺さるものがあったな。
『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』
監督:ジョナサン・レヴィン
出演:シャーリーズ・セロン、セス・ローゲン、オシェア・ジャクソン・Jr、アレクサンダー・スカルスガルド
製作:アメリカ
2020年1月3日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』公式サイト
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家、ラジオパーソナリティ、コラムニスト。現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月曜~金曜 11:00~13:00)でパーソナリティーを務める。近著に「女に生まれてモヤってる!」(小学館)。新刊『これでもいいのだ』(中央公論新社)が2020年1月9日に発売。
高橋芳朗
東京都港区出身。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ、選曲家。「ジェーン・スー 生活は踊る」の選曲・音楽コラム担当。マイケル・ジャクソンから星野源まで数々のライナーノーツを手掛ける。近著に「生活が踊る歌」(駒草出版)。