最近、話題を呼んでいるラブコメ映画の名作『ノッティングヒルの恋人』。その理由は? 二人が明らかにします。
これぞ、ラブコメ映画の王道!
――今回取り上げるのは、ラブコメの金字塔と名高い『ノッティングヒルの恋人』(1999年)です。
高橋芳朗(以下、高橋):ラブコメ映画としてはもうパーフェクトな一本と言っていいんじゃないかな? 僕らが提唱してきた「ラブコメ4つの条件」をすべてハイレベルで満たしているしね。『AKIRA』風に言うと「ラブコメを絵に描いて額に入れたみてぇだぜ!」って感じ!
ジェーン・スー(以下、スー):うまいこと言うね! ホント、おっしゃる通り。
高橋:では、まずは簡単にあらすじを。「ウエストロンドンにある平凡な街ノッティングヒルで小さな旅行専門書店を経営するバツイチの冴えない男、ウィリアム・タッカー(ヒュー・グラント)。そんな彼のお店に、ある日偶然ハリウッド女優のアナ・スコット(ジュリア・ロバーツ)が訪れる。買い物をすませたアナは店を去るが、そのあとドリンクを買いに行ったウィリアムと街角で激突。ジュースで汚れてしまったアナの服を乾かすためにウィリアムは彼女を自宅に招待することに。思わぬアクシデントをきっかけにしてふたりは急接近するが…」というお話。
スー:「そんなきっかけ、ありえない!」と思うんだけど、最後は謎にうっとりしてる自分に気づくっていうね…。
高橋:実は今年でちょうど公開20周年なんだよね。海外のメディアでは撮影時の裏話を紹介する記事がたくさん組まれてる。
スー:米雑誌『バラエティ』の記事を読んだけど、脚本家のリチャード・カーティスを始め製作陣は、「とにかくアナ役はジュリア・ロバーツじゃなくちゃ!」って感じだったみたい。一方で、ウィリアム役には無名の俳優を使おうとしてたらしいよ。でも、誰もピンとこなくて、「ダメダメ、ヒューに電話して!」ってなったらしい(笑)。ウィリアムの本屋さんは実在して、いまだに世界中から観光客がひっきりなしに訪れるそう。あそこでプロポーズする人もまだまだいるって。長く愛されてる映画だよね。
高橋:一連のアニバーサリー特集でこの映画の根強い人気を改めて痛感させられたよ。米雑誌『インスタイル』では劇中のジュリア・ロバーツのファッションに触れていて、アナが自分の思いをウィリアムに伝えにいくシーンで身にまとっていたカーディガンはジュリア・ロバーツが撮影当日に実際に着ていた服なんだって。華やかな舞台から離れたアナの一女性としての感情を表現する場面だから、用意された衣装より私服の方がふさわしいんじゃないかっていうジュリア自身の判断らしい。いや、あのシーンのアナのファッションはずっと素敵だなって思ってたんだよ! それはともかく、本当に興味深い記事がたくさん出てるからファンの人はチェックしたほうがいいと思う。
ジュリア・ロバーツが可愛すぎる!
――では、3つ目の「適度なご都合主義」はいかがでしょう? かなりのご都合主義な感じもしましたが…。
高橋:ラブコメ映画でこのぐらいのご都合主義はぜんぜん「適度なご都合主義」でしょ(笑)。手の届かない有名人とのロマンスは誰もが一度は妄想するようなことだから、多少強引なストーリー展開でも許容されやすいというのはあるかもしれない。
スー:映画の裏テーマは「何がなんでもウィリアムを困らせろ!」だと思ったくらい、ウィリアムが災難に見舞われるのも、ご都合主義といえばご都合主義。アナは常に不安定だけどね。
高橋:そのアナの不安定さがまた物語のスリルを高めてる。果たして彼女は信用に足る女性なのだろうか?って。
スー:でも、可愛いから信じちゃう。とにかく背筋が凍るほどアナが可愛い。みんなジュリア・ロバーツの笑顔と、ヒュー・グラントの困った顔が好きなんだね。話の粗というか穴は、全部アナの満面の笑みで埋められるのよね。穴にアナだよ。
高橋:フフフフフ、うまい!
スー:全編ご都合主義だけど、ウィリアムがアナの申し出を断るシーンだけは、すごくリアルだなと思った。もう一度去られたら、もう二度と立ち直れないというその気持ち。だって、交通広告やらビルボードやら、街中にアナの笑顔があふれてるんだもの。キツいよ。
高橋:超セレブとの物理的・精神的な距離の描き方が絶妙なんだよな。届くのか届かないのか、届いているのか届いていないのか、本当なのか本当じゃないのか…。
――では、4つ目の「明日もがんばろうと前向きな気持ちにしてくれる」はどうですか?
スー:ウィリアムは友達に恵まれてますよね。私はそこが励みになったな。必要なのは、日常を劇的に変えてくれるスターの登場じゃなくて、日常を支えてくれる普通の友達なんだな、と。友達がいれば、大丈夫だなって。
『ノッティングヒルの恋人』
監督:ロジャー・ミッシェル
脚本:リチャード・カーティス
出演:ヒュー・グラント,ジュリア・ロバーツ,リス・エヴァンス
初公開:1999年5月13日
製作:イギリス
Photos:AFLO
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家、ラジオパーソナリティ、コラムニスト。現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月曜~金曜 11:00~13:00)でパーソナリティーを務める。近著に「女に生まれてモヤってる!」(小学館)。
高橋芳朗
東京都港区出身。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ、選曲家。「ジェーン・スー 生活は踊る」の選曲・音楽コラム担当。マイケル・ジャクソンから星野源まで数々のライナーノーツを手掛ける。近著に「生活が踊る歌」(駒草出版)。