動画配信サービス会社がオリジナル作品を数多く製作している昨今。ここはその波に乗り、今回はNetflix(ネットフリックス)の作品を取り上げます!
注目のネットフリックス製ラブコメ作品
——今回紹介する映画はネットフリックスのオリジナル作品『セットアップ:ウソつきは恋のはじまり』です。
ジェーン・スー(以下、スー):ネットフリックスオリジナルのラブコメ映画、つまり劇場公開されていない作品ってところがポイントですね。映画館のスクリーンで観られることを前提として作られていないわけで。テレビの画面、パソコン、タブレット、スマホで観る人がほとんどだろうな。
高橋芳朗(以下、高橋):では、まずはあらすじを。「有名スポーツ記者キルステン(ルーシー・リュー)のアシスタントを務めるハーパー(ゾーイ・ドゥイッチ)。そして、同じビルにオフィスを構える大物投資家リック(テイ・ディグス)の部下チャーリー(グレン・パウエル)。ボスからの理不尽な要求に振り回され、休む暇なく仕事に追われる毎日に嫌気がさした二人は、互いの上司を恋人同士にしてしまえば自分たちに自由な時間ができるはずと意気投合。結託してキルステンとリックをくっつけようと策略をめぐらすが…」というお話。ラブコメではわりと定番の設定ですな。
スー:ストーリー自体に目新しさはないんだけど、配役や細かい設定が最新バージョンにアップデートされていたのがよかったな。例えば上司役のキルステンは、男性優位と言われるスポーツ業界で活躍するアジア系の女性ジャーナリスト。大物投資家のリックはアフリカ系アメリカ人、つまり黒人。今までのラブコメ映画だと、どちらも白人男性が配役されることが多かったよね。この作品には人種や性別のせいで嫌な思いをするシーンが描かれていないのも特徴だよね。理想主義的というより、「それらの属性が障害になる社会を変えたい」という作り手の信念を感じました。現実はそう簡単ではないだろうけど、あるべき姿を描いているんだろうな。
ポリコレの最新アップデートバージョン
高橋:作り手がポリティカルコレクトネスをしっかり意識するだけで、こんなにもアップデート感が出るんだね。さっきも言った通り物語の大筋はラブコメ定番の設定だし、ある意味『プラダを着た悪魔』(2006年)と『ファミリー・ゲーム/双子の天使』(1998年)をミックスさせたようなお話で特に目新しさはないんだけど、それでもちゃんと「2018年型のラブコメ映画」になってるんだよな。
スー:と同時に、ちょっと引っかかるのがキルステンとリックによる部下への無茶ぶり。パワハラレベルでしょあれは。私の知る限りだけど、アメリカの一部大手企業って日本よりずっと軍隊めいていて、上の命令は絶対なのよね。会社は「代わりならいくらでもいる」って態度だし、クビを通告されたらその日のうちにオフィスから出ていかなきゃならない。とにかくクビにならないことに必死。上司をとっちめる映画だけど、ギョッとする人はいると思う。
——アメリカの会社はこんな感じなんだと正直驚きました。そんな今っぽくアップデートされたラブコメですが、この作品で一番言いたいことって何でしょうか?
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家、ラジオパーソナリティ、コラムニスト。現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月曜~金曜 11:00~13:00)でパーソナリティーを務める。
高橋芳朗
東京都港区出身。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ、選曲家。「ジェーン・スー 生活は踊る」の選曲・音楽コラム担当。マイケル・ジャクソンから星野源まで数々のライナーノーツを手掛ける。