2025.04.11
最終更新日:2025.04.11

『HERE 時を超えて』|『フォレスト・ガンプ』チーム再結成。アメリカ版『ALWAYS 三丁目の夕日』【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

現在公開中の映画を、菊地成孔が読み解く。

『HERE 時を越えて』

『HERE 時を越えて』
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『フォレスト・ガンプ』チーム再結成。
アメリカ版『ALWAYS 三丁目の夕日』

 もとになっている絵本はよくできています。原作を知っていると、楽しめるかもしれません。原作の絵に忠実に、カメラを一つのアングルに固定した画で再現してはいる。しかし監督ロバート・ゼメキス、主演トム・ハンクス&ロビン・ライトらによる『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)チームのアティチュードは「30年ぶりにみんなでやろうぜ!」以上でも以下でもない。特別な野心は見当たりません。

 1907年に建った家を舞台に、いくつかの家族を定点カメラで描く。中心はハンクスとライト扮する夫婦だが、各時代の別家族の姿が漫然とシャッフルされるため、とにかく気が散る。

『ガンプ』も一芸だった。歴史的なフィルムに、デジタル処理で主人公を紛れ込ませる。それだけで面白かった。今回も一芸。ある夫婦が若くなったり老いたりする姿をデジタルメイクで見せる。しかし、もはやテクノロジーのデモ。話はとってつけたかのよう。

 コロナ禍やブラック・ライブズ・マターも加えているが描写としてはぬるい。アメリカの近代史を一つの家から全部照射する作劇ではない。景気や治安の変化にも、凸凹したダイナミズムがない。誰と組んでもすごい仕事をするハンクスがでくのぼうにしか見えない。なんという名優の消費。妻が一人で物語を動かすが、演じるロビン・ライトからも気合は感じられない。

 固定カメラが各家族の情景を液状化し、各時代をヒット曲で表出させるだけの絵空事が、まったく感慨を生まない。相当に呑気な映画。まるで『ALWAYS 三丁目の夕日』のような。世に問うものが何もない引退寸前の成功者たちが作っているから、別に嫌な気にもならない。諦めにも似た気持ちになる。

 おそらくゼメキスは、タランティーノの『パルプ・フィクション』(1994年)の時空シャッフルを観ても何も感じなかった。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)で’50年代をリスペクトした感覚のまま本作を撮った。年代記なら任せておけと。しかし、まるで面白くない。

 ゼメキスの監督デビュー作『抱きしめたい』(1978年)は良作でした。これも一部の観客にとっては癒やしになるかも。’80年代組特有の必死じゃない映画の雰囲気は、アメリカ最後の「余力」と言えなくもないからです。(談)

『HERE 時を越えて』

監督/ロバート・ゼメキス
出演/トム・ハンクス、ロビン・ライト
4月4日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

仕掛け絵本とも言うべきリチャード・マグワイアのグラフィック・ノベルを『フォレスト・ガンプ/一期一会』の監督、脚本、主演チームが映画化。恐竜の時代から始まる、ある場所に建った家が舞台のアメリカンファミリー・クロニクル。定点カメラながら、窓を媒介に過去と現在を行き来する映像手法。トム・ハンクス、ロビン・ライトが10代から70代までを演じる。

菊地成孔

音楽家、文筆家、音楽講師。最新情報は「ビュロー菊地チャンネル」にて。
ch.nicovideo.jp/bureaukikuchi
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