たかが音、されど音。いい音を追求するオーディオの世界は、終わりがなく、どうやら底なし沼らしい。その姿は多様なれど、さまざまな形でハマった男たちのオーディオライフを聞いてみた。
#03 綾部徹之進さん(レコード過剰愛好家)
独自のネットワークを世界中に築き、海外のコレクターや博物館も垂涎のレコードを数多く所有する綾部徹之進さん。秘密基地のようなオーディオルームには、貴重なファーストプレスのレコードコレクションとともに、ヴィンテージオーディオが並んでいる。
「日本のオーディオの現状を僕のイメージで説明すると、日本はやっぱりハードとソフトって比べたときに、ハードにものすごく偏っているんですね。ハードには高いお金をかけるけど、ソフトはCDや復刻盤のLPだったりで、僕からしたらえせソフトみたいなのをいくら高いオーディオで聴いても本末転倒というか、ほとんど意味がない。いちばんの動機は、自分の好きな愛聴盤をなるべくいい音で聴きたいということだと思うんです。いつの時代の、どんなジャンルで、どんなタイプの音かでシステムは変わるので、自分の好きなソフトの最頻値に合わせてハードを選ぶべきだと僕は思います」
そんな綾部さんのオーディオシステムは、グッドマンのスピーカーに、トーレンスとガラードの2台のレコードプレーヤー、そしてクオードのアンプという構成。いずれも1960年代のものである。
「僕は、’50年代のモノラル黄金期の音がいちばん好きなので、オーディオもそれに合わせて組んでいます。オーディオって基本的にスピーカー、アンプ、レコードプレーヤー、CDを聴くならCDプレーヤーという組み合わせですが、全体の音の80%を支配しているのはスピーカーなんですよ。じゃあ、高いスピーカーがいいのかというと、そうじゃなくて、やっぱり相性なんです。このグッドマンのスピーカーは、ヤフオク!とかで10万円、20万円で買えますし、もっと言えばここにあるオーディオシステムは全部で100万円くらいで揃います。けっして高くはないんです」
ただ、綾部さんの場合、これが複数セットあるのだ。
「50年以上前の製品だし、ヴィンテージは個体によってコンディションのバラつきがあるので、同じものを何組も手に入れて、その中からベストな組み合わせで使っています。ここにあるのが一軍で、まったく同じ組み合わせでコンディション違いのものが全部で3セットあります」
ちなみに、この部屋の中でいちばんお金がかかっているのは、レコードプレーヤーのMCカートリッジと、MCカートリッジの出力を上げるための昇圧トランスだという。この二つで100万円以上するとか。
「レコードを聴くうえでカートリッジの性能はすごく重要。最高の盤を最高の状態で聴くにはそれが必要なので、妥協はしません」
[DATA]
スピーカー:GOODMANS AXIOM 201
プリアンプ:QUAD 22
パワーアンプ:QUAD Ⅱ
レコードプレーヤー:THORENS TD-124,GARRARD 301
Composition&Text:Masayuki Sawada